一緒にドラゴンに会いに行こう!
「グランディール」
「……えっと、大叔父上、でよろしいのでしょうか」
「構わんとも。其方はローデリックの子なのだからな」
「私を国王陛下の子と認めてくださるのですね。ありがたく存じます」
使節団のみんなと騒がしく食事をしていると、いつの間にかやって来ていた国王の親の兄弟である男性――大叔父が話しかけてきた。
それに対して普通に答えたつもりだったんだけど、一瞬だったけどなんだか苦い顔をしてたな。
ああ、もしかして俺を王族として認めるつもりはなかったのかな?
「……そうだな。だが其方も王の子なのだ。使節団の歓待をするのも重要だが、他の子……其方の兄弟たちとの交流もすると良い。使節団の歓待は我々が引き継ごう」
「ご配慮いただき感謝いたします。大叔父上」
そうして俺は使節団のみんなから引き離され、再び一人ぼっちになってしまった。
まあそれ自体は構わないんだ。だって向こうの言っていることも正しいとは思うし。身内だけで固まって話してるんじゃなくて、ちゃんと友達の輪を広げましょう、ってのはこの場において真っ当なことだと思う。
でも……
「他の兄弟たちとの交流って言われても……他の奴ら降りてこないじゃん」
他の王族たちは全員壇上で食事をすることもなくじっとしている。
あそこでじっとしているのは凄いと思うけど、それはそれとして降りてきてくれないと仲良くなるもくそもないんだけど?
「グランディール様。少しばかりよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
なんて思っていると、また誰かが声をかけてきた。でも、振り向いた先にいたのは今まで見たこともない人物。今度はいったいだれだろう?
「私は第二王子殿下の母親である第二王妃の実家、ルーザーズ家の当主、フォイル・ルーザーズと申します」
「そうですか。グランディール……ボルフィール・ゲオルギアです。それで、何の用ですか?」
まだ王族として生きていく覚悟ができていないせいで、家名を含んだフルネームを口にするのに少し戸惑ってしまったけどこの場で名乗らないわけにはいかないので仕方ない。
「グランディール様はこれまでとてつもない苦難の道を歩いてきたと聞き及んでおります。陛下が王となられる前、家族で旅行をしていた最中族に襲撃され、赤子であったあなたは奥にはドラゴンが存在していると言われている魔物の森に投げ出されたとか。そこで魔物に拾われて育てられたとも聞き及んでおります」
なんだこいつ。なんか大仰な言い方をする奴だなぁ。なんて言うか、俺に対して話しているというよりは別の……ああ、劇の役者が観客に語り掛けるような、そんな雰囲気が感じられる。そしてそんな俺の考えは間違っていなかったようだ。
「魔物に育てられた? そんなことがあり得るのか?」
「だとしたら、血統は正しくとも王族として迎えるのは……」
「そも、その血統すらも正しいのか? どこかで取り違えられた可能性があるだろう」
「そうですわね。何もできない赤子が魔物の森で生きていられたなど、とても信じられませんわ」
俺達の話を聞いていた貴族たちは、話題を見つけたとばかりに目の前の男――フォイルの告げた言葉について話し始めた。どうやら貴族たちは俺のことを知っていても、全てを知っているわけではないようだ。
そしてこいつは〝敵〟で、役者のような喋り方は俺について貴族たちに広めることが目的だったのだろう。
「ええ、概ねその通りですね。大変ではありましたが、決して悪くない生活でした。何より……」
とはいえ、今更その程度の事で怯むわけではない。だって事実だし。まあ、強いていうなら魔物じゃなくてドラゴンだけど、その違いを言ったところで大した意味はないだろう。
でもまあ、口だけとはいえ攻撃されたわけだし、少しくらいは意趣返しをしてもいいよな?
「ハゲタカも狸もいませんでしたから。稀に襲ってくる魔物もいましたが、育ての親の影響でそれなりに戦えますので命の危険、という意味では安全でしたね」
そんな俺の皮肉はしっかり伝わったようで、フォイルは頬を引くつかせている。貴族がそんなに感情を見せてもいいのか? もしかして反撃されないとでも思っていたんだろうか?
「そ、そうですか……しかし、そのような状況でありながら、よくぞご無事でお戻りになられましたね。他の大陸に転移の事故で跳ばされたのですから帰ってくるだけでも命がけだったことでしょうに、その上貿易の話まで付けられるとは。王室第三近衛騎士団団長のライラ殿であれば可能だとは思いますが……いやはや、どうすればグランディール様のような御年でそのような成果を出すことができるのかご教示願いたいものです」
うーんと、これは俺の功績は他人のものだったんだから王族になるのにふさわしくない、的な意味か?
まあ確かに、俺は十四歳だし、まだまだ子供だ。そんな奴が大陸をまたぐような貿易の話を持ってきたとなれば信じられなくて当然だ。
でも、信じられないのと、信じる信じない以前に貶めるつもりなのは別物だろ。
「皆さん私の成果に疑問を抱いているご様子ですので、一つ証明しましょう」
疑っているんだったら証明してやろう。攻撃してくるならやりかえすし、罠に嵌めようとしているなら食い破ったうえで罠に嵌め返してやろう。
「証明、ですか?」
俺の言葉が予想外だったのか、フォイルの表情が引きつっている。まるで予定とは違う方向に進んでしまって危機感を感じているような顔。
でも多分、その考えは正しい。きっとここから先はフォイルが想定していた道筋とは大きく外れたものになるだろうから。
「ええ。せっかくです。私は他の大陸、他の種族との貿易の足掛かりを作ったことが評価されています。ですので、新たに貿易の相手を増やすことで私の成果に関しての疑念を払うこととしましょう」
「なるほど。でしたら、そのお相手はどこと考えておられるのでしょうか?」
これまで俺は流れに身を任せただけだけど二つの大陸の貿易について話を持ってきた。そんな俺が自分の力を証明するなら新たに貿易相手を探してくるのが妥当だろう。
南の大陸の竜国と西の大陸の獣人ときたら、残っているのは東だけ。だから普通に考えるならそっちだろう。
でもあいにくと、俺は普通じゃないんだ。それに、東の大陸に何があって誰がいるのかも知らないし、挑んだところでうまくいくとは思えない。あと、時間がかかる。大陸間の移動は時間がかかるってことは嫌って程思い知った。できる事なら船での移動なんてしたくない。
「ドラゴンを」
その言葉を継げると同時に、周囲から音が消えた。
それまで小声で俺達のことを話していた貴族も目の前のフォイルも、声を発するどころかは動きさえ止めた。
気持ちは理解できる。誰がドラゴンを相手に貿易をしようなんて思うのか。普通なら馬鹿馬鹿しいと一蹴されておしまいだろう。……まあ俺は普通じゃないから思うわけだけど。
「………………は? え、あ、は? ……ドラゴン、ですか?」
「ええ。私はドラゴンに知己がいるんです。あなたの言う魔物の森の奥には、ドラゴンが暮らしている。それは貴方もご存じでしょう?」
呆然としたまま呟いたフォイルの言葉に答えるように、世間一般にも知られている話をする。
「それと先ほどの話ですが、一つだけ訂正させてもらいます。私は魔物に育てられたのではありません。私は、ドラゴンに育てられたんです」
さっきは言う必要がなかったから訂正しなかったけど、魔物とドラゴンを同列に語られていた事を不愉快に思っていたのは事実だ。だから訂正する。
だが、そんな俺の言葉を聞いた周りの反応は劇的だった。
「馬鹿な! ドラゴンに育てられたなどあり得んだろう!」
「魔物よりもドラゴンの方が知能が高いのですから、魔物に育てられたという話よりは信憑性があると思いますが?」
「だ、だがっ、それが本当だと証明できるのですかなっ!?」
「だから、それを証明するって言っているんです」
貴族たちが騒ぎ、それによって気を取り直したフォイルが声を荒らげて問いかけてきたけど、笑顔で断言して黙らせる。
ここでいくら言葉を重ねたところで意味なんてない。証明する方法なんて、実際に話を纏めてくる以外にないんだ。
「ドラゴンが生息し、魔物が蔓延る森。あなたも連れて行ってあげますよ」
「え? な、なぜ私が……」
「あなたが聞いてきたのではないですか。どうやって貿易の話を進めることができたのか、知りたいのでしょう?」
人のことを罠に嵌めようとしたんだから、悪名高い魔物の生息地についてくるくらいの度胸はあるよな?




