親子の触れ合い
「剣を振っていたようだが、怪我はないか?」
いきなり国王が来たかと思ったら、いきなりそんなことを問われた。
怪我をしていないか聞いてきたってことは今の場面を見ていたってことなんだろうけど、それならさっき逃げていった王子達のことも見ていたはずだ。それなのに何も聞かないなんて良いんだろうか?
「あ、ああ、はい。お恥ずかしいところをお見せしました。勝負の場に出ておきながら技に失敗するなど……」
勝負は引き分けだったけど実際の勝ち負けとして見れば俺の方が勝ちだっただろう。でも、技を失敗したというのは事実だ。堂々と勝負を受けて剣を振っておいてあんなにはっきりと失敗するなんて、しかもそれを見られていたなんて恥ずかしい。
「お前の歳で技の発動まで持っていくことができただけ優秀だ」
「ですが、私の……母は私の歳で剣を極めていたと。そう聞き及んでいます」
だからきっと、やろうと思えばできないわけじゃないと思うんだ。普通の子供では無理だとしても、俺はドラゴン達に育てられた経験があって、前世の分の思考能力があるんだから。センス、という意味では負けるだろうけど、それでも補って余りあるアドバンテージだと思っている。
それでも失敗したのは、少し悔しい。
「ああ、そうだな。メリルは強かった」
ただ、母親の話題を出したことで何を思ったのか、国王は一瞬だけ眉を顰めてから呟いた。
「「……」」
それからただ無言の時間が流れる。お互いに相手の顔を見ているけど、見ていることを見られているのが恥ずかしくて視線を逸らしてしまう。向かい合っているけど向き合っていない。
そんな地獄みたいな時間が流れる事しばらく、とつぜん国王が息を吐き出してから口を開いた。
「ドラゴンに育てられたと聞いているが、ここでの暮らしはどうだ?」
「まだ慣れないこともありますし、問題もないわけではありませんが、暮らしていく分には問題ありません」
「そうか。……アレらがすまない」
アレら? ……ああ。アレか。国王の言っているのはさっきまでここにいた王子達の事だろう。
「第一王子らの事でしたら構いません。羽虫が目の前を飛んでいたからと言って、本気で怒るドラゴンはいないでしょう?」
「羽虫か……」
何とも言えない表情をしているが、そうだった。俺にとってはほぼ他人だけど、国王にとっては実の息子であることに変わりはないんだ。だとしたら……言い過ぎたな。
「失礼しました。言葉が過ぎました」
「いや、いい。私も分かっているのだ。アレは相応しくないと」
緩く首を振ってそう言った国王だけど、どれが何に相応しくないのかは聞かない。聞いたら面倒なことになるかもしれないと思ったから。国王が一番王位に近い息子のことを否定するなんて、普通に考えてまずいだろ。誰かに聞かれてはならない言葉だし、その言葉を俺が聞いたと周りにバレてもまずいと思う。
ただ、ダメだと分かっているのならなんで放置しているのかは少しだけ気になった。
「……でしたら、なぜ放っておかれているのですか?」
「面倒なことに、私には力がないのだ。武力ではなく、貴族間における力がな。王となった後に国を纏めるのに必要だったために当時私に味方した貴族の中から力ある家を選び、妃として迎えたが……ふっ。なんということはない。味方は純粋な味方ではなかったというだけの話だ。むしろ、今では敵とさえ言えるかもしれないな」
「……そうですか」
なるほど。王制であり国王が国のトップなんだとしても、だからと言って支配者という意味ではないようだ。少なくとも、今のこの国の状況はそうらしい。
「「……」」
そうして再び沈黙が訪れたのだが、今度こそ話すことがなくなってしまった。
どうにか理由をつけてこの場を去ろうかと思っていたら、黙っていた国王が突然剣を抜いた。
どうするつもりだと思っていると、国王は俺から数歩離れたところに移動し、剣を構えだした。
「お前の動きは独特だ。元は別の理論によって一定の水準の強さを手に入れた影響なのだろう。その強さのおかげで半端ながらも技の発動を可能としているが、そのせいで動きの流れが途切れ、不完全なものとなっている」
そう切り出してから国王はゆっくりとした、でも重く力強い動きで剣を動かしだす。
「こうだ。――我らの刃は敵を切り裂き、人を守る意思の形」
息を吐き、言葉を口にすると同時に剣を振る。
その剣の型には見覚えがあった。ライラから教えてもらったものであり、先ほどまで俺が修練し、そして失敗した剣だ。
その結果は、俺の失敗したものとは大きく違っていた。
振り下ろされた剣は空気を裂き、地面を抉った。剣そのものの強度ではない。これが技術の差なのだと、はっきりと思い知らされた。
「一度自身の中にある理論を忘れ、純粋に剣技の流れに身をゆだねてみるとよいだろう」
自分の中にある理論っていうのは、竜魔法や人の魔法の事か? もしかして、そっちの方がやりやすいだろうと勝手に独自の理論で剣を振っていたのが分かったのか?
どこまでこの人が理解しているのかはわからないけど、俺が失敗してこの人が成功したのは事実だ。だったら、アドバイスは聞いた方がいいんだろう。
「ありがとうございます」
「誰になにを言われようと気にすることはない。お前は私の子なのだから」
それだけ言うと国王は剣を収め、この場を去ろうと歩き出したが、途中で足を止めてこちらに振り返って来た。
「それから、アレを殺さずにいてくれてありがとう。相応しくはないが、あれでも私の子なのだ」
そう言って今度こそ去っていったが、その表情はどこか寂し気なものでとてもではないが〝王〟のものではないように感じられた。
「……人間って、難しいな」
本当にそう思う。




