次は俺の番だ
「それで、向こうの反応はどうだった?」
「俺達の裏切りを許さないと」
「うん」
「そして、この村に攻め込んでくると」
まあこれは予想通りだな。むしろこうなってほしくて彼らを送り出したとさえいえるんだから、願ったりかなったりだ。
大事なのはこの後。敵が攻め込んでくるとして、それがどの程度の規模で、どのくらいの時間があるのかだ。それによってこっちの動き方も変わってくる。
「そうか……リラ。この村に敵が来るまでどれくらいの時間があると思う?」
「自身の部下から裏切り者が出ているのだ。全力でつぶしに来るだろうが、そうなると一週間……いや、5日といったところか」
五日か。思ったよりも早いな。普通こういうのって何日どころか一か月二か月って時間がかかるものなんじゃないのか? と思ったけど、ここは魔法があるのか。ならそれだけの移動速度を出すことができてもおかしくないかもしれない。
なんて思ったのだが、ライラが目を丸くして驚いていた。やっぱり普通じゃないのか。
「五日? 随分と早いのね。相手の居場所が地図通りなら、それなりに距離があるはずだしもっと時間がかかるものなんじゃないかしら? 移動以外にも物資を集めたり運んだりしないといけないし、ただ賊を倒すのとはわけが違うのだから、最低でも二週間は必要だと思うけれど?」
「それは人間の場合だろ。みんなで足並み揃えて移動とか、ばかげてんだよ。なんで速い奴が遅い奴に合わせないといけないんだ。予定日と場所を決めて通達すれば、それぞれが自分の速さで間に合うように集まるんだからそれでいいだろ」
「その場合だと敵の奇襲や罠によって全部隊壊滅、なんてこともあり得るわ」
「ハッ! それは弱いからだ。戦士なんだから、それくらいどうにかして乗り越えるべきだろ。それに、あたしらは物資の準備や運搬なんて考えてないからな。敵がいるなら、そいつらを倒して奪えばいい。物資が必要なら後から運ばせればいいしな」
なんという獣人思考……いやエラ・リラは獣人だし当たり前なんだけどさ。そりゃあこんなことを当たり前として考えるような種族だったら今まで纏まることができなかったのも当然というものだろう。あまり軍事に詳しくない俺ですらそれでいいのかと思える作戦だ。
とはいえ、それで問題なくやってこれたから獣人たちも考えを改めたりしないのだろう。……あ、いや。問題があったのかもしれないけど、それを変えるだけの頭を持っていなかっただけかもしれない。
「……やっぱり獣人は野蛮ね」
「欲に溺れて無意味に他者を傷つける人間よりはマシだ」
なんてライラとエラ・リラが軽い言い合いをしているけど、どっちが正しいんだろうな?
でもまあ、それはそれとして……
「それで……結局五日後には敵が来る……戦争が起こると思っていいのか?」
「た、多分な。五日より早いことはないと思うけど、遅くはなるかもしれないし、その前に偵察くらいは来るかもしれない」
つまり、五日後から散発的に攻撃が行われるかもしれないってことで、そこから更に数日経つとさらに敵が増えるってことだ。ならそれはそれでいいとしよう。偵察に関しては多分気づけないだろうから仕方ない。気づければ対処するけど、気づけなかったところで見られて困る事なんてこの村にはないし問題ないだろう。
普通なら偵察でこっちの戦力がバレることを避けるものだろうけど、こっちの戦力って基本的に〝俺〟だし、正直なところ戦士の総数とか配置とかバレたところで俺さえ動けるなら何の問題もない。
「うん。それは別にどうでもいいよ。偵察で何かを見られたとしても、どうせ見たところでこっちの戦力なんてわかるわけでもないんだから。ただ、暗殺や妨害工作なんかの警戒はしておいて。偵察だって、俺は気にしないけど見られること自体は不快だし、見られないに越したことはないんだから。それから……」
ライラとエラ・リラに話をし終えると、俺は片膝をついたままのバルザック達へと顔を向けた。
そして傷ついた状態でいながらもここまで戻って来て忠誠を誓っている彼らのことを見回す。
「よくやった。お前たちは休んでろ」
そう告げた直後、バルザック達は下げていた頭を上げて俺のことを見つめてきた。その眼には感動や達成感といった光が感じ取れた。
「お前たちの主は、お前達が命を懸けただけの価値はある奴だってことを証明してやる」
「「「「……はっ!」」」」
一斉に返事をしたバルザック達の声を聴いてからライラに彼らの手当てをするように頼むと、彼らは安心したのか途端にその場に倒れてしまう者もあらわれた。
運ばれていく彼らの姿を見て、一度だけ大きく深呼吸をしてから村の外……敵のいる方向を見つめた。
「やるのか?」
「ここでやらなきゃ、あいつらの主失格だろ?」
彼らの主としての俺の覚悟はまだ半端なものだ。それでも、主として相応しくあろうと決めた。
彼らは死ぬかもしれないと分かっていながらも自分達の誇りのために見事与えられた命令をこなしてきたんだ。
なら、次は俺の番だ。




