帰って来た者。帰ってこなかった者
「……別にどうもしなくても良いんじゃないかしら? この大陸は特にドラゴンが関わっているというわけでもないのだし、ただ単純に強者が生まれたというだけのことだもの。それに、強者が生まれること自体は私たちにとっても悪いことではないわ」
「そうだけど……いや、そうだな。それじゃあまあ、いいか」
村の住民が強くなって俺達に害があるわけでもないし、強くなったから下剋上を、なんて戦いを挑んできた結果、村の住民が勝ったならそれはそれでいいと思っている。より強いものが主として君臨すればこの村の安全も増すし、いつかここを離れる俺よりもここに残り続ける住民の方が主として向いているだろうから。
……まあその場合は俺が負けることになるから配下になれ、とか言われるかもしれないけど、流石にそれはお断りだ。もし無理強いするようなら港づくりを中断してでも船で逃げる。
「ええ。あまり気にする必要はないわ。それに、どうせ竜魔法って言っても身体強化だけで属性変化を含んだ〝技〟の方は覚えてないのでしょう?」
「ああうん。それは流石にね。今できるのは半端に竜魔法をかじった身体強化、ってくらいの奴だし、これから身体強化を極めたとしても、多分俺が使ってる〝技〟までは辿り着けないと思う。あれは身体強化とは別の技術が必要だし」
「なら余計心配ないでしょう?」
本当に大丈夫かと心配になるけど、まあ大丈夫だろう。少なくとも俺とは方向性が違う使い方だし、俺というよりもエラ・リラを真似してる感じの戦い方だから何かあっても俺の責任にはならないはずだ。まあ、責任と言っても何の責任だ、って感じもするけど。
「ちなみに、今の戦士たちってどれくらいの強さだと思う?」
「そうね……ゲオルギア王国だと近衛騎士に抜擢されてもおかしくないくらいの強さはあるわね」
「近衛騎士ねぇ……実際強いのか? 正直、強いイメージがないんだけど」
何か名前からして強そうな感じはするけど、実際に会ったこともないしどれくらい強いのかわからない。
なんだかライラが自慢げな様子を見せているけど、そこまで態度に見せるほどの強さなんだろうか?
「他の国ではお飾りや箔付けという意味で貴族の子弟を入れているところもあるけれど、ゲオルギアの近衛は実力重視よ。何せ最もドラゴンの領域に近い国だもの。ドラゴンが現れた場合、王族が指揮に出ることもあるのだから、その守りである近衛騎士は単独でドラゴンと戦えるくらい……せめて時間を稼ぐという行為ができるくらいの強さはないと務まらないわ」
初めて聞いた話だけど、その言葉には驚きを覚えた。だってそうだろう? 普通ならドラゴンと戦ったら死ぬ。それも、碌な戦いにすらならず、何もできずにあっけなく死んでいく。それほどの存在がドラゴンだ。
そんなドラゴンを相手に単独で〝戦い〟を行うことができるとなると、結構な強者だぞ。
その言葉が本当なら、ライラから感じた自慢げな雰囲気は間違いじゃなかったわけだ。
「ライラの国ってそんなに強かったのか……ドラゴン相手に時間稼ぎができる程度でも十分凄いことだぞ」
「私の国というか、あなたの国でもあるのだけどね。でもまあ、そうね、。ドラゴンと実際に戦ったことがある人はそれほどいないから、あくまでもそれができるだろうと考えられる程度の強さではあるわね」
「ああ……まあそりゃあそうか。ドラゴンがそんなホイホイそこら辺にいるわけじゃないし、実際に近衛騎士の全員が戦ったことがあるわけないか」
なんて話をしながら今日も何事もなく一日を終えていった。
――◆◇◆◇――
「主! あいつらが帰って来たぞ!」
村の住民たちの強さを認識してからさらに数日が経過したある日、エラ・リラが慌てた様子で走りながら突撃して来た。
性格的に粗暴ではあっても、普段は落ち着いた行動をとっているのにこれほど騒ぐなんていったいどうしたんだろう?
「あいつら? 誰のことだ?」
「前にここに攻め込んできた奴らだ。ほら、主に負けて罰として自分の主だった者のところに帰って話をして来いって命令した奴らがいただろ」
「ああ! やっと帰って来たのか。それで? どうだったんだ? 全員そろって帰って来たのか?」
エラ・リラが慌ててやって来た理由を聞き、俺は一瞬目を丸くして驚いたがすぐに気を取り直して結果を尋ねた。
多分無理だろう。でもそうであってほしいと願いながらの言葉だったが……
「……いや。遠目だったが、人数が減っていた」
「っ!」
分かっていた。そうだろうと言われていたし、俺だって状況くらいは理解していた。
でも実際にそうなったのだと聞くと、胸に重く何かがのしかかって来た。そしてそれと同時にいてもたってもいられず、反射的に村の外へと走り出していた。
「お前ら!」
村の外に走る事数十秒。たったそれだけの時間でこっちに向かってきている獣人たちを見つけたが、確かに言われた通り人数が減っていた。
前回にあった時は十数人いたはずなのに、今では半分くらい……いや、それ以下まで減っている。
「お、王……申し訳、ありません。与えられた任を果たすことができませんでした……」
「他の……」
そう言えば、俺はまだこいつらの名前すら知らなかったな。そんなことを今更思い出し、唇をかみしめる。俺は、死んで来いと命令した相手の名前すら知らないのか……。
俺はこいつらの主……王だ。だから王として考えれば一々全員の名前を覚えておく必要なんてないんだろう。というか、無理な話だ。部下の全員に感情移入をするのもよくないことだし、そんなことをしていれば、統治か精神かはわからないけど、そのどちらかがいつかどこかで破綻する。
部下は数字で、死者は結果。その死を悼むことはあっても、涙を流してはならない。きっとそれが王という存在の在り方だ。
でも、違うだろ。
俺はこいつらの主であっても王ではない。人数を纏めていると言っても、そこまで多いと言えるほどの数じゃないんだ。全員は覚えられなくても、せめて自分が命令したこいつらの名前くらいは覚えておくべきだった。
「……何人死んだ?」
「九人です。ですが……全員で帰還せよという命こそ守ることはできませんでしたがっ……! ……それでも以前の王への報告と、王からの要求はしかと伝えてまいりました」
悲しげで悔し気で、でもどこか誇らしげなその様子が、俺には理解できない。
死んだら終わりだ。自分も仲間も、死んだらそれで終わりなんだ。死んだことで残せるものなんて何もない。すべては生きてこそ成し遂げることができるはずだ。
それでも……
「そうか。……そうか」
俺の命令で死んだ者がいることは事実で、その死んだ者はそれを誇りとして胸に抱きながら死んでいった。
なら、俺がその想いを無駄にするわけにはいかないし、自分の考えで死んだ者達の誇りを汚すわけにもいかない。
だから彼らの死に何を思おうと、今は全て吞み込んでおけ。




