率いる者の覚悟
「……色々といい話が聞けたわね。敵意はまだ向けてきているみたいだけれど、負けた相手に逆らうほどじゃないみたい」
責めてきた敵の一団を倒した後はライラたちに頼んで敵がどういう状況なのかを聞き出してもらうことにした。
まだこれから攻めてくるだろうってことは分かってるけど、攻めてくるにしてもどの程度の規模なのか、どのくらいの時期なのかというのが分かったほうがいい。わからないにしても、予測できる何かしらの情報は欲しいところだ。
ただ、負けたのに敵意を持っているのは根性があると言うべきか、それとも現実が見えていないと言うべきか悩むところだな。
まあそれでも従うつもりはあるみたいだから問題ないと言えばない。完全に忠誠を誓っていないんだったら戦士として使うのには問題があるかもしれないけど、話を聞くだけなら十分役に立ってくれたし。ただ、敵の機密なんかは教えてくれなかった。大して知らないというのもあるけど、元とはいえ主を裏切る行為はできないそうだ。
「人間と手を組んであたしら戦士の誇りを傷つけている馬鹿どもだが、それでも最低限の誇りくらいは持ってたみたいだな」
「人間と手を組むのが誇りを傷つけるって言うけど、俺達も人間なんだけど?」
「強者は別だ。人間は基本的に弱く、ずるく、鬱陶しい存在だけど、堂々と戦う力を持った強者ならそいつは戦士だからな!」
エラ・リラは胸を張りながらそう言っているけど、その言葉には思わず顔を顰めてしまった。
俺は戦士なんて呼ばれるほど崇高な存在じゃないんだけどな……
ただ力を持っただけの凡人。それが俺の本質だ。なにせ、一度目がそうだったんだから。
誇りやプライドってものを大事に思いながらも、自身の中には本物の誇りなんて存在していない。〝それ〟にあこがれ、求めてそれらしく振舞っているだけだ。
ドラゴンとしての振る舞いも、自分はドラゴンだと言い張るのも、ただそう言っていれば自分もかっこよくなれると思ったからに過ぎない。
それを理解しているからこそ、戦士なんて呼ばれると座りが悪い。
「はあ……それじゃあ帰りたいやつは帰っていいよ。聞きたいことは聞けたし。気に入らないんだったら無理して仲間に入れることもないし。残ってもいい奴だけ残ってくれればそれでいいよ」
聞きたいことも聞けたし、彼らを開放することにした。
最初は奴隷として作業兵に使おうかと思っていたんだけど、ここまで敵意を向けていられると空気が悪くなると判断したのだ。
獣人たちの間ではそれが普通らしいんだけど、俺はそんな空気の中で過ごしたくはない。
それに、作業兵が増えないとしても、元々増員なんてない想定で計画を立てていたんだ。なら何の問題もないだろう。
……エラ・リラの言葉には納得したけど、奴隷って存在を使うのはまだ少し抵抗感があるし。だから、いなくなるのならそれはそれで構わない。
「なんだてめえ……俺達を率いる自信がねえってのか?」
でも、そんな俺の発言が気に入らなかったのか、自由になる事ができるというのにもかかわらずバルザックは俺のことを睨みながら問いかけてきた。
負けて、支配下に入ったはずであるにもかかわらず俺にそんな態度をとっているのが気に入らないんだろう。エラ・リラが怒りを漲らせているけど、何かする前に俺は一歩前に出てバルザックの問いに答えた。
「そうじゃなくてさ、あんたたち、負けたし従うつもりはあるけど、心から従う気はないだろ? そんな奴らを手下にしたところで何になるんだよ。余計な面倒ごとを抱え込むだけじゃん。今って結構ややこしい状況なのに、面倒ごとが起こる可能性を抱える必要はないだろ、って話だよ」
ルールを守って勝者には従う。でも敵意は残っているなんて歪な状態で何も起こらないわけがない。獣人的には〝何もない〟なのかもしれないけど、俺達からしたら明らかな問題となることだってあるかもしれない。そんな文化の違いを一々話し合って確認している暇なんてない。
だったら、今は問題が起こる可能性がすこしでもあるなら遠ざけておきたい。これで問題が起きて港の工事を邪魔することになったら目も当てられないし。
「だから、それが率いる自信がねえっつってんだよ! ボスならボスらしく、負かした奴を全員抱え込むだけの男気を見せろってんだ!」
ああ、なるほど。バルザックが気に入らないのはそこなのか。勝ったんだったら勝った者らしく群れを率いろ、と。獣人としての誇りを失った、なんてエラ・リラが言っていたけど、その部分は獣人らしさがあるらしい。
でも、そんなバルザックの考えに、俺は同意することができない。ボスとして振舞うつもりがないという意味じゃなく、男気云々の話だ。
「……男気か。わかるよ、そう言いたい気持ちも。それがあんたにとっての信念の形ってやつなんだろうってことも。確かにここで解放するのは格好悪いかもしれないね。でも、それが俺の覚悟なんだ」
「ああ?」
少なくとも、俺はそう思っている。
でもバルザックはそんな言葉だけでは納得できなかったようで、いぶかしげな表情をしている。
あんまり、こういう自分の気持ちとか考えを言葉にするのって好きじゃないんだけど、話さない事には納得してもらえなさそうだし仕方ないか。
「無駄に見栄を張って邪魔な部下を抱え込むのは男気じゃなくてただの無謀、馬鹿野郎のカッコつけだ。最初は状況に流されてだったけど、それでも俺は村の奴らを守るって決めたんだ。なら、そのために全力を尽くすべきだろ。誰に何と言われようと、その考えは絶対に変えない」
ここで敵だった奴らを仲間として迎え入れるのは確かにかっこいいかもしれない。でもそれは表面上だけのものだ。本質はただの考えなしか、よほど度量が大きいか。悪いけど、〝偽物〟である俺にはそんな度量はないんだ。
村の奴らを守る覚悟はある。ボスとしてみんなを率いる覚悟もある。ドラゴンとして恥ずかしくない行動をするぞという信念もある。
でも、恐ろしくもある。自分の失敗で誰かが傷つくのが。親しい誰かが死んでいくのが。自分の命令のせいでみんなの努力が壊れるのが。
そして、それでもみんな俺のことを責めないだろうという予想そのものが――たまらなく怖い。
これはドラゴンたちの村にいた時にはわからなかったこと。
ライラと共に行動していた時もわからなかった。この大陸に来て、ボスという役割を押し付けられて初めて分かったことだ。
だから無駄に危険を冒してまで格好つけるつもりはない。
怖がりな俺でも、村を守ろうと決めたんだ。そのための最善を尽くすために動かなくちゃだろ。
……まあ、本当に最善を目指すっていうんだったら、今回倒したバルザック達を解放しない方がいいんだろうけど。奴隷にしたくないなら殺して終わらせるべきだ。それをしないのは、まだ本当の意味で覚悟ができていないからだろう。
「挑みたかったらいつでもかかってこい。そのたびにぶっ飛ばしてやるから。それでいつか俺の下についてもいいって本気で思えるんだったら、その時は歓迎してやるよ」
他の村の奴らもそうして来たんだ。だったらきっと、仲間にするつもりならこの方法が獣人たちにとっては一番正しい方法なんだろう。
仮に今後戦争があった際、こいつらが敵の軍に混ざっていたとしても、ぶっちゃけ大した戦力にはならないし問題ないはずだ。倒すだけなら簡単に倒せるんだから大丈夫だろう。
「――す、すまない!」
言いたいことは言ったので、もう後は自由にさせようと思って背を向けようとしたその時、バルザックが突然膝をついたまま頭を下げてきた。つまり土下座だけど、何だってそんなことをしてるんだ?




