表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女のいる街  作者: しし
9/11

別れ


交番の中で、僕は何も答えなかった。

おじさんは警察の人に促され、別室へと連れて行かれていった。

そのとき、とらだけは僕のそばに残してくれた。


僕はずっと、膝の上のとらを見つめていた。

何も話さず、ただ黙って、とらを撫でながら泣いていた。


やがて、おじさんが戻ってきた。

充電の切れた携帯は警察の人が持っていって、

充電できたののだろうか?

どこかに電話をしていた。

おじさんは僕の前にしゃがみ込み、静かに言った。


「そばにいるよ。

 君の家族の誰かが迎えに来るまで、ずっとそばにいる」


僕は、前髪のすき間からおじさんの顔をのぞいた。

この人は親切なのか、そうじゃないのか――

よくわからない人だな、と思った。


そのとき、膝の上のとらが急におじさんに飛びかかった。


「うわっ」

驚くおじさんに、とらは「ふにょにょにょ」と早口で文句を言う。


「ああ、ごめん! ご飯か! ごめんごめん! そうだよな、晩ごはん食べてないよな……」

おじさんが慌てて言う。


そして僕のほうを見て、

「……あれ? 君ももしかして、食べてないんじゃない?」


その瞬間、僕のお腹がぐぅ、と鳴った。


警察の人と話をして、すぐ近くのおじさんの家に向かうことになった。

交番は狭くて、僕が過ごせる場所がなかったのだという。


おじさん、警察の人、とら、そして僕。

三人と一匹で移動した。


おじさんの家に着くと、警察の人はおじさんの携帯が鳴るのを確認して、

「すぐにご家族の誰かを向かわせるから安心しなさい」と言い残して去っていった。


それから、おじさんは急いで僕ととらの晩ごはんを用意してくれた。

とらと僕は並んで食べて、

おじさんに言われるままに新品の歯ブラシで歯を磨いた。


そして、とらを抱きしめながら、ソファに横になった。

おじさんはリビングの片隅の椅子に座って、ずっと僕たちを見守っていた。


うつらうつらと、眠りかけていたとき――

玄関のほうから、声がたくさん聞こえてきた。


お母さんと、お父さんだった。


お母さんは泣きながら僕を抱きしめて、

「ごめんね」と繰り返した。

「ごめんね、もう一度、みんなで一緒に暮らそうね」


お父さんは困った顔で、

「済まなかった」とだけ言った。


僕は両手を引かれて、お父さんとお母さんに連れられて行く。

とらの体温が、腕の中から遠ざかっていった。


「家に帰るんだって」


頭の中で、ぐるぐるといろんな言葉が回っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ