表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女のいる街  作者: しし
5/11

写真


目に入った公園のベンチに座って、もう一度地図アプリを開いた。

やっぱり、高校はひとつしかない。

他の高校は、近くても二駅先にある。


カフェだって、よくあるチェーン店だ。

この駅の近くにも、隣の駅の近くにも、たくさんある。


 


彼女の、今日の投稿を見返す。

駅の写真。

間違いない、あの駅だ。僕が降りた駅と同じ。


僕は、今日一日かけて撮った写真をスクロールしていく。

撮ったときは、あんなに楽しかったのに。

今見ると、写真は少しくすんで見えた。


やっぱり、絶対に「同じ」って思えるのは──

駅の最初の一枚だけだった。


 


足が痛いことに気づく。

朝から何も食べていなかったことにも、気づく。


リュックを開けて、飲み物とお菓子を取り出す。

これを食べたら、おばあちゃんの家に行こう。

そう思って、お菓子を袋から出す。


もう、だいぶ薄暗くなっていた。

早く食べないと。


僕が、お菓子を食べていると──


 


不意に、ひざの上に

暖かくて、なにか重いものが乗った。


そっとひざに目をやる。


茶トラの、丸々とした猫がそこにいた。


 


「お菓子、食べたいの?」

「ごめん、食べちゃった」


僕は、お菓子の袋を猫の鼻先に近づけてみる。

けれど、猫はぷいっと顔をそむけた。


仕方なく、そっと背中を撫でると、

猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、

僕のひざの上でぺたりと伸びて、リラックスし始めた。


「さみしいの? 君も、ひとり?」


僕は猫を、ゆっくり、ゆっくり撫で続けた。

心のどこかで──

「おばあちゃんの家に行かなくちゃ」って思いながら。


猫が退いたらもう行こう。

おばあちゃんの家までの経路を確認するために携帯を開く。


……携帯の電源が切れていた。


充電が少なかったのに、気づかないまま使い過ぎてしまった。




もう僕には何も残ってなかった。


使えない携帯

食べちゃったお菓子の袋

飲んじゃったペットボトル


猫だけ、僕のそばに残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ