写真
目に入った公園のベンチに座って、もう一度地図アプリを開いた。
やっぱり、高校はひとつしかない。
他の高校は、近くても二駅先にある。
カフェだって、よくあるチェーン店だ。
この駅の近くにも、隣の駅の近くにも、たくさんある。
彼女の、今日の投稿を見返す。
駅の写真。
間違いない、あの駅だ。僕が降りた駅と同じ。
僕は、今日一日かけて撮った写真をスクロールしていく。
撮ったときは、あんなに楽しかったのに。
今見ると、写真は少しくすんで見えた。
やっぱり、絶対に「同じ」って思えるのは──
駅の最初の一枚だけだった。
足が痛いことに気づく。
朝から何も食べていなかったことにも、気づく。
リュックを開けて、飲み物とお菓子を取り出す。
これを食べたら、おばあちゃんの家に行こう。
そう思って、お菓子を袋から出す。
もう、だいぶ薄暗くなっていた。
早く食べないと。
僕が、お菓子を食べていると──
不意に、ひざの上に
暖かくて、なにか重いものが乗った。
そっとひざに目をやる。
茶トラの、丸々とした猫がそこにいた。
「お菓子、食べたいの?」
「ごめん、食べちゃった」
僕は、お菓子の袋を猫の鼻先に近づけてみる。
けれど、猫はぷいっと顔をそむけた。
仕方なく、そっと背中を撫でると、
猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、
僕のひざの上でぺたりと伸びて、リラックスし始めた。
「さみしいの? 君も、ひとり?」
僕は猫を、ゆっくり、ゆっくり撫で続けた。
心のどこかで──
「おばあちゃんの家に行かなくちゃ」って思いながら。
猫が退いたらもう行こう。
おばあちゃんの家までの経路を確認するために携帯を開く。
……携帯の電源が切れていた。
充電が少なかったのに、気づかないまま使い過ぎてしまった。
もう僕には何も残ってなかった。
使えない携帯
食べちゃったお菓子の袋
飲んじゃったペットボトル
猫だけ、僕のそばに残っていた。




