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彼女のいる街  作者: しし
4/11

探索


ここだ。

さっきの彼女と、同じ画角。

同じ風景。


彼女が、ここにいた。

写真を撮った。

僕の携帯の中に、彼女の街がそっと閉じ込められていた。


彼女と一緒の空間に立っている。

インスタの中に入れた──

そう感じた。



結局僕が買った切符は、

おばあちゃんのいる海の近くの街じゃなくて、

彼女のいる街までの切符だった。


今いる駅からおばあちゃんの街の駅までの切符が、まだぎりぎり買える。

ごはんを我慢すればいい。

お父さんが入れてくれたお菓子もある。

大丈夫と何度も自分に言い聞かせた。


彼女の顔もわからない。

だから、彼女を探すことはできない。

でも──

この街に残る、たくさんの「彼女の痕跡」が見たいって思った。


気がつけば、携帯のバッテリーもけっこう減っていた。

おばあちゃんの家まではまだ遠い。

携帯が切れたら……、ちょっと困ることになるかもしれない。


携帯を大切に使おうと決めた。

お父さんやお母さんは多分僕に連絡なんかしてこないけど、

さすがにおばあちゃんの家にたどり着けなかったら迷惑をかけちゃうし。


写真を撮る場所も厳選しよう


「大丈夫、大丈夫」


僕は何度もつぶやいた。



あっ。

このカフェ、もしかしたら……。


さっき見た投稿に写っていたカフェ。

きっと、彼女の好きな場所だ。


入りたかったけど、お金があまりなかった。

彼女の好きな新作を頼んでみたかったけど……

それはまた今度にしようって思った。

今度がいつ来るかはわからないけど。


 


いろんなところを歩いたあと、最後に「彼女の学校」に行こうと思った。


さっきのカフェ。

彼女の投稿でよく見る、学校のすぐ近くにあるそのカフェから、

地図アプリで一番近い高校を調べた。


──たくさん学校があったらどうしよう、わからないかも──

そう思ったけど、

このあたりには高校はひとつしかなかった。


ここだ。

そう確信して、学校への道を進んだ。


もう夕方になりかけている。

学校を見たら、おばあちゃんの家に行かなくちゃ。

そう思いながら、角を曲がった。


 


──あった。学校だ。


僕は思わず走って、校門の前に立った。


門を見上げる。

中には、たくさんの生徒たちがいた。

でも──女の子がいない?

なんだか、変だな……。


 


学校の周りを一周してみることにした。

その途中で、用務員さんらしき人を見つけて、挨拶をする。


「こんにちは」


「はい、こんにちは」


用務員さんは少し驚いた顔をして、でもすぐに優しく笑ってくれた。


「……あれ?もしかして学校見学かな?

ここの学校、中高一貫の男子校なんだよね。

もしかして受験生? がんばってね」


「ありがとうございます。失礼します」


頭を下げて、足早にその場を離れる。


 


──男子校?


ここは、彼女の学校じゃない?


……だとしたら。

この街は、彼女のいる街じゃない?


僕の心臓は、ドクドク音を立てていた。



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