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第4話『売れない絵画』その3

場面変わって翌日。ダニエルはルーカスを引き連れてとある牧場へと足を運んでいた。

「会長、ここが昨日話してたマギーさんのところっすか?」

「いや?ランラン牧場だよ。ダランさんとカランさんっていう兄弟で経営してるんだ」

「え?」

牧場に行くなんて話は一言も聞いていないルーカスは、面食らって間の抜けた声を上げていた。そんな彼の驚きを気に止める素振りもなく、ダニエルは得意そうに解説を始める。

「昨日マギーさんの話をしてて思い出したんだよね。ファティスの羊毛と言ったらランラン牧場だって」

「お。ダニ坊嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」

そんな言葉と共に、立派な口髭を携えた恰幅の良い中年男がぬうっと姿を見せた。

「あ、ダランさん。……坊はやめてくれって、言ってるじゃないですか」

「かははっ!悪いな。俺らにとっちゃお前はいつまでもダニ坊なんでな!」

「兄さん、お客さんかい?」

豪快に笑うダランの奥から、ダランをひょろっと縦に潰したような似た顔の男が顔を覗かせた。

「ややや。ダニエルじゃないか」

「カランさんもお久しぶりです」

彼が、ダランの弟のカランである。ダニエルの姿を見て驚いたカランだったが、すぐに顔を綻ばせた。

「本当に。何年ぶりかね?懐かしいなあ。あ、ローザさんに聞いたよ?商会を始めたんだって?」

「おう。そういやそんな話を聞いたな。ナンチャラ商会とかいう」

「ブラウン商会です。そうなんですよ。こちらは部下のルーカス」

「あ、どもっす……」

急に話を振られるとは思っておらず、ルーカスは言葉を詰まらせてしまう。まったく。紹介するならするで前日くらいに知らせておいて貰いたいものだ。

なんて考えているルーカスだったが、ふと気になることがありダニエルへと小声で話し掛けた。

「さっきローザさんの名前が出てましたっすけど、ご家族ぐるみの付き合いなんすか?」

「ん?あー違う違う。母さんが縫い物の仕事してるからさ、時折僕も一緒にここまで羊毛を買いに来てたんだ。商店で買うより安いし、何しろここの羊毛は新毛で質も良いからね」

「お。いいこと言ってくれるじゃねぇか!おうとも。新毛だぜ。しかもうちの羊どもは揃って毛並みが良いんだ。いいもん食わしてるからな」

ダニエルの言葉にダランが気持ち良さそうに笑いながら深く頷いた。

ダニエルやダランの言う新毛とは、羊から直接刈り取った毛のことをいう。一度服に加工した羊毛をほぐして再利用というのも出来なくはないし、現にそうなった羊毛を販売している商店もあることはないのだが、やはりなんというかそういう糸は新物と比べて品質が劣化するのである。

「あの、羊毛見せてもらってもいいですか?」

「ああ。勿論だよダニエル」

ダニエルの願いに、カランはにこやかに応じると牧場近くの小屋へと入っていった。ややあってカランが持ってきたそれに触れると、ルーカスは驚いた。

「ふわっっっふわすね!?」

「でっしょ~!?正直フリッツさんのところとは比べ物にならないレベルなんだよね。いや、僕も未熟だったよねえ。ファティスはファティス。セタンタはセタンタとしか考えられてなかったんだもの」

「……会長?というと?」

「ルーカスも一緒に来てるから分かるでしょ?この世界に商人は星の数ほどいれど、魔物が出る森を往復してまで他の町に品物を流通させようっていう気概のある商人は少ないんだよ。いたとしても、ランタンとか持ち歩ける品くらいかな?」

「……なるほど」

言われてルーカスも小さく頷く。確かにどんな良い商品があったとしても、あの苦難の道のりを何度も往復して仕入れをしたいかと言われたら、首を縦に振る商人はいないだろう。

「これ、ファティス以外に出してます?」

「うんにゃ?ローザさんと、あと数人が買ってくれる以外は、この町のゴンナ商店に卸してるくらいだな。ま、手の掛けっぷりにしちゃ売り上げはボチボチってところだ」

「ファティスは、衣服に関しては盛んじゃないですからねー」

頷いた後で、口の端をつり上げてダニエルはルーカスへと目を向けた。

「だからさ。僕らがもしこれを持ち帰ってセタンタで売れば、どうなると思う?」

「!」

察したルーカスが、あっと声を上げる。確かに衣服など織物の需要は、セタンタの方が遥かに高いだろう。

「と、言うわけでダランさんカランさん。僕らも羊毛を扱いたいので、卸して頂くことは可能でしょうか?」

「ああ。別に構わねえが、一頭か?二頭分か?いくらで買う?」

「うーんそうですね……。ゴンナ商店にはいくらで卸してるんです?」

「一頭分の毛で銀貨八枚ってところだな」

ふんすと鼻息を荒くしながらダランが言う。やはり彼らの中にはダニエルを昔遊びに来ていた坊やと見る目があり、商会の会長とは見れていなかったのだろう。だから次の彼の言葉に大変驚くこととなる。

「じゃあ一頭につき銀貨十枚出しますよ。なので羊二十頭分をお願いします。はい、こちら契約書」

「えっ!?に、二十頭!?」

ゴンナ商店に卸しているのは十頭分。単純に倍だが、値段も高い。そして今牧場で毛刈りを待つ羊は三十頭以上。ゴンナ商店分を引いても、確かに売れるだけの毛を蓄えた羊は揃っているのだ。

ランラン兄弟は預かり知らないが、当然ダニエルはそこまで観察して、情報を得て、可能な限りの状況を把握した上で彼らに交渉を持ち掛けているのである。こうなってしまえば、私情を挟む以外に彼らに断る理由はない。ダランとカランはまんまとダニエルの手のひらの上で踊らされる運命なのである。二人は顔を見合せた後で改めてダニエルへと目を向けると、

「こ、今後ともご贔屓に頼むぜ」

と引きつった笑顔を浮かべながら固い握手を交わした。

「で、お前さん。こいつはいつまでに必要なんだ?」

握手の後で、小首を傾げながらダランが口を開く。まあ当然の質問であろう。尻込みするといけないと思って意図的に伏せたのだから。そう問うダランにダニエルは「んー」と思案する素振りを見せると、

「明日には帰るので、明日の朝、今と同じくらいの時間帯に受け取りに来て良いですかね?」

とにこやかな笑顔を浮かべながら口にした。仰天したのはランラン兄弟である。

「なに!?明日の朝だぁ!?」

「難しいですかね?それなら別に今回は……」

「待ちやがれダニ坊。誰が出来ないっつったよ!?おいカラン!」

「わ、分かったよ兄さん。準備してくるから……!」

「──分かった。明日の朝だな。キッチリ準備する。だから今日はもう店仕舞いだ。明日になって、やっぱりやめた、は無しだからな?」

二十頭分の毛刈りともなれば、まあ一筋縄ではいかないだろう。陽が落ちてしまっては出来ないだろうし、無茶苦茶な話であることには間違いがない。だが、それを飲んででも強硬したい程に、ダニエルの提案は魅力的だった。何しろ今から死ぬ気で頑張れば、明日には予定にもなかった金貨二枚が手に入るのだ。金貨二枚といえば、彼らの一月の収入に等しい。何がなんでも契約を完遂させたいと意気込むほどの、旨味の乗った提案だったのである。

「勿論。宜しくお願いします」

そう言ってダニエルは深々と頭を下げると、ルーカスを連れ立ってランラン牧場を後にするのだった。

「……しかし、まさかファティスで契約を取ってしまうとは……」

信じられない。といった様相のルーカスに、ダニエルは「あはは」と頭を掻いて苦笑した。

「急な思い付きにしては上手くいったね」

「会長と居るといくつ心臓があっても足りませんよ」

「あっはっは!」

「いや笑い事じゃねーんすけど……」

そんな話をしながら、二人は本来の目的地を目指す。へばるルーカスを励ましながら丘を登ると、その上に目的の場所はあった。

「マギーさんの家だ。ここも懐かしいなあ……!」

感嘆の声を上げるのも無理はないだろう。ダニエルにしてみれば、十年以上ぶりに足を運んだのだ。


◆◆◆◆◆


「誰かと思ったら、ローザんとこのガキかい」

ダニエルの姿を見るなり、開口一番にマギーはそう口にした。

「え?分かるんですか?」

記憶にある限り、ダニエルがマギーの元を訪れたのは十歳よりも前のことである。その時よりは身長も伸びて顔付きも変わっていると思うのだが。

「私にしてみりゃ誰も彼も変わっとりゃせんよ。ローザだって小娘のままさ」

マギーは小さな丸眼鏡をくい、と動かすと、その奥の鋭い瞳をダニエルへと向けていた。

マギーは御年七十歳の老女である。元々は栗色の髪の持ち主であったが、今はその半分が白髪に染まってメッシュのようになっている。そんな髪を後ろにまとめてお団子を作っているのは彼女自身であり、身内はいない為に家事は全て一人でこなしているのである。

そんな彼女はこの世界では珍しい、健康で長寿な人間であった。

「で、そのローザのガキが何の用だい。用もなくこんなババアの所に来る訳もないだろ」

「あ、はい。ありがとうございます。ローザの息子のダニエル・ブラウンと言います。こっちは友達のルーカス」

(友達……)

商会云々の説明は必要ないと判断したのだろう。ざっくりとした紹介にルーカスは驚いたが、空気を読んでマギーへと会釈した。

「ふん。それで?」

「実はマギーさんに見てもらいたいものがありまして。これは、五十年程前に描かれたものらしいのですが……」

言いながら、ダニエルは鞄の中から一枚の絵を取り出した。

丘に白い花畑が描かれた絵である。

「母は、ここの丘じゃないか、と言うのですが、同時に赤い花だった、とも言っておりまして……」

「ん……」

眼鏡を掛け直して絵をひとしきり眺めたマギーは、ふー、とため息を吐き出した。

「奥に矢倉が建ってるね。確かにこれはここからの絵で間違いないだろうさ」

「……やっぱり……!」

「けど、ローザの言う通りだ。ここに咲いていたのは真っ赤なフージャの花さ。決して白い花なんかじゃなかった。あたしゃ毎日ここで花畑を見ていたんだ。世話してやったこともある。悪いけど勘違いなんかじゃないよ」

マギーの言葉に嘘も偽りもないことは、ダニエルにも分かっている。やはり赤い花だったことが確証されてしまうこととなり、ダニエルはう~ん……。と腕を組んだ。そんな会長に目を向け、ルーカスも思案するとこんなことを口にした。

「赤く塗り忘れちゃったとかっすかね?」

「ルーカス。カリーナさんはこの絵に何度も祝福を掛けさせてたんだよ?忘れてる訳ないでしょ」

「うぐ……。じゃ、じゃあ劣化して色が落ちちゃったとか」

「……祝福」

「あう……。すんませんポンコツで……」

「お待ち」

落ち込むルーカスを他所に、再度絵をじっくりと眺め回していたマギーが声を上げた。

「これ、赤く塗られてた形跡があるね」

「えっ!?」

驚いたダニエルとルーカスの二人が促されるままに絵を覗き込むと、成る程確かに白い花の一部に、赤い色がはみ出しているのが見えた。

「赤で描いたものを、何でかは知らないけど上から白で塗り潰してんのさ。……酷い悪戯するね」

吐き捨てるマギーの隣で、ダニエルは口元に手を当てると頭を回転させ始めた。

(花畑はやはり赤。花の種類はフージャ。絵も元々は赤くて、上から白く塗り潰した……?駄目だ。まだ材料が足りない……)

「さて。聞きたいことはそれだけかい?」

考えあぐねているダニエルを見かねてか、マギーがそう口にした。ハッと我に返ると、小さく頷くダニエル。

「そうですね。お陰で色々分かりました。ありがとうございます」

「ふん。そうかい」

鼻白んだ様子でそれだけ口にすると、頭を下げて背を向けるダニエルにマギーは言葉を投げ掛けた。

「ローザの奴、たまにここに来ちゃ息子の話ばかりしていってね。全く。全然久しぶりなんて気はしなかったよ」

「……母さんが?」

「何か年々子供の種類が増えていってる気がするのは気掛かりなんだけども、……とにかく顔が見れて良かったよ。……商会、しっかり頑張んな」

ダニエルが振り返ると、マギーは彼に背を向けていた。

それきりマギーは何も言おうとはしなかった。

(……知ってたのか)

ダニエルは深く頭を下げるとルーカスを連れて彼女の家を後にするのだった。


◆◆◆◆◆


自宅に戻ったダニエルは自室にルーカスを連れ込むと、一冊の分厚い書物を棚から取り出した。色も薄茶けて、年期が入っていることが一目で分かるその本を遠目に見て、ルーカスは息を飲んだ。

「会長、それは?」

「ああ、これ、植物図鑑なんだ。父さんのお下がりでね」

焦げ茶色のハードカバーを床に広げながら、何でもないようにダニエルが答える。

「小さい頃からこの本を見るのが本当に好きでさ。何度も何度も借りて読んでいたら、父さんが譲ってくれたんだ。数少ない、思い出の一つだよ」

「……そうなんすか……」

「そんなことより!……あった、これだルーカス」

「へ?」

呼ばれてルーカスがダニエルの背中越しに本を覗き込むと、そこにはとある植物についての絵が描き込まれていた。

白黒なので分かりにくいが、そこにはこう記されている。

「フージャ……、って、あの絵の花じゃないっすか」

そう。図鑑には、花の図解と共に、フージャとその名が刻まれていた。

「そう。このフージャの花、赤い花弁のものと白い花弁のものがあるらしい。何か関係ありそうじゃないか?この絵の謎とさ」

「確かに……!」

ダニエルの熱に圧されるように、ルーカスは再び息を飲み込んだ。

そうして食い入るように図鑑に目を向ける二人であったが──。

「……なんも、ないっすね」

「生態にも変化はなし、強いて言うなら白いフージャは珍しく、滅多に見かけないってくらいか……。これじゃあ弱いなぁ」

ただ珍しいから、では、カリーナがわざわざ赤い花畑を上書きして何度も何度も祝福を掛けさせてまで後の世に遺そうとした理由にはならないとダニエルは考えていた。しかしそれ以上のことは図鑑には載っておらず、実質上のお手上げである。

「今から別の場所に行くか?でも宛もないしもう遅いし、明日には羊毛を受け取って帰らなきゃだし……、くそ……」

完全に行き詰まってしまったダニエルが吐き捨てるように声を出す。そんな彼を見かねてルーカスが横から口を挟んだ。

「会長。とりあえずこれまでの経緯を含めてお母さ──、ローザさんに相談してみたらどうっすか?」

「図鑑にもないことを母さんが分かるわけないでしょ!」

反射的に強い言い方をしてしまい、ダニエルがあっと口を押さえる。一方のルーカスは、ぽつり、ぽつりと呟くように口を開いていた。

「会長は、凄い人だと思ってます。私情を挟まず、いや、時に私情すら利用して、最終的には自分のしたいことを成し遂げるその姿勢は尊敬に値すると、俺は思ってます」

「ルーカス……」

「でも、今の会長は私情を優先して意固地になってるだけじゃないすか。今のこの謎が解けるかどうかじゃないです。……打てる手を打たずに嘆くのは、それはカッコ悪いっすよ。会長」

ルーカスにそう告げられたダニエルは、まるでこの世の終わりと言わんばかりの顔を見せた。その表情は、言ったルーカスがたじろぐ程である。

「うえ!?か、会長!?」

「……今の僕、カッコ悪い?」

「いやあの」

「……分かった」

「ええ!?」

どうやら、自慢の部下にカッコ悪いと思われることだけはダニエルにとっても耐え難いことだったらしい。がばりと身を起こすと、ルーカスの制止も聞かずに部屋を出た。慌てて後を追うルーカス。ダニエルはズンズンと台所母の元に向かい、そして勢いよく口を開いた。

「──あのさ。母さん。聞いてもらいたい話があるんだけど……!」

その剣幕に釣られるようにローザも真剣な表情を浮かべると、彼女は静かにこう口にした。

「……もう夕飯出来るから後にしなさい」

「……はい」

どこまでも間の悪い、しまらないダニエルなのであった。

◆◆◆◆◆


夕食は以前ルーカスが喜んだということでハンバーグであった。やはり今回も美味い美味いとはしゃぐルーカスと喜ぶローザが見れたのだが、そこは割愛しよう。

夕食が終わってまどろんだ空気の中、ダニエルは不承不承といった様子を見せながらも切り出した。

「今日行ってきた報告からなんだけど……」


─────

───


「そう。マギーおば様元気そうだったなら良かったわ」

「うん。ありゃしばらく病気も何もしそうにないよ。──それで」

「白いフージャの花畑、ね」

ローザが噛み締めるように口にする。

「うん。絵を描いたカリーナさんについては話した通りだよ。彼女は何故か晩年、赤い花畑を白く塗り替えたみたいでさ。僕には理由が──」

「花言葉ね」

「──え?」

ローザの口から飛び出した予期せぬ言葉に、ダニエルは驚いて顔を上げた。

「だってこの絵は、旦那さんの故郷の絵なんでしょ?きっとカリーナさんもこの絵が一番気に入っていた筈よ。その花の色をわざわざ変えるなんて、伝えたい花言葉が変わったからとしか思えないもの」

「花言葉、って、あの女子が気にしてるやつ?なんで母さんがそんなの知ってるのさ」

「花言葉はね、大体の女の子は通る道なのよ。私だってそれだけは一生懸命覚えたんだから」

「……他にもっと覚えた方が良かったものあったでしょ」

文字とか。そうぼやくダニエルを「うるさいわね」と一蹴すると、

「それで、聞きたいの聞きたくないの?」

と口にした。

「……そりゃ、聞きたいけど」

「そうね。それじゃあ────、ええと……。あら?なんだったかしら?」

「ちょっと母さん!?」

「静かに!今思い出してるから!」

「…………」

不安そうな顔を浮かべているダニエルを気にせず、こめかみに指を当てながら思案した後で、ややあってローザは小さく頷いた。

「そ、そう!そうね!ええ。思い出したわ。赤いフージャと白いフージャ。それぞれの花言葉は────」

「え。それって──」

ローザがその花に込められた意味をそれぞれ口にする。

母の言葉受けると、何かを掴んだのだろうか。ダニエルはまるで雷に撃たれたように背筋を伸ばして顔を上げていた。

「参考になった?」

「なったなった!それがそのまま答えで間違いない!」

興奮してそう捲し立てた後で、恥ずかしくなったのだろう。耳まで真っ赤になって俯くと、ダニエルは

「その、あ、ありがと……」

と小さな声で口にした。

「そう。良かったわ」

「……と、とにかく!これで分かったぞ!」

ダニエルは気恥ずかしさを振り切るように一人ごちると、勢いよく振り返った。

「あの会長?何が分かったんすか?」

「ルーカス、ありがとう!君の発破のお陰だよ!」

未だどういうことか理解出来ていない部下の腕を取るとぶんぶんと振る。

「え?ええ?会長?」

訳も分からぬまま、しかし嬉しそうなダニエルに、ルーカスもまんざらではない様子であった。

「あらあらぁ」

そしてローザも、そんな二人を微笑ましく眺めているのであった。

「やっぱりあの二人なら、安心ね」

羊毛のくだりが突然生えました。


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