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7.ただのゲンジ

 二人に告げたのは、この旅で俺が望むものだった。


「旅で出会った人に、俺が皇子だということは知られたくないんだ」


 帝都を追放されたとはいえ、身分としては皇子のままだ。継承権のない皇子は、他国との関係性を強化するために、婿に出されることが少なくない。そうなれば、もう俺に自由は許されない。つまり、この旅は俺が外国に嫁がされるまでの期限つきだ。

 だから、せめてこの旅の間だけでも、皇子じゃない、ただのゲンジでいたい……。


「アタシはなんも変わらねェなァ! だろォ、親友!」


 そうだな。フロートは今まで通りにしてくれればいい。


「私もゲンジ様が皇子だと知られぬように、尽くさせていただきます」


 真剣に答えるコルレには言いにくいが、伝えなくては。


「気持ちは嬉しいんだけど、まずはその『ゲンジ様』ってのバレそうだからどうにかできないか」


「しかし私はゲンジ様の専属侍女ですのでこればかりは……」


 頑ななコルレに、俺が折れることになった。

 商会の息子なら侍女が付いていても不思議ではない。他の人に知られないように協力はしてくれるのだし、そのあたりは俺がなんとか誤魔化そう。


「そういやァ、まず農村に行くのは聞いたけどよォ。そこで何をするのか聞いてねェよなッ! もしかして、甘いもンかッ!?」


「まったく、フロートさんは……」


「正解だ、フロート」


「ええっ!?」


 俺が農村で何をするか。それは父上と愛人(フリューゲル)の思い出を辿ること。


『懐かしい、西の農村まで馬に乗って……。お前はあそこのプリンが本当に、好きだったから』


 父上は死の目前、フリューゲルとの思い出を語り続けた。俺は、その話に出てきた場所に行けば、何か分かるかもしれないと思った。


「農村にあるプリン、それが探しものだ」


「やったぜッ! あッまいものーッ、あッまいものーッ!!」


 フロートはすっかり舞い上がっていて、狭い車内いっぱいに身体を揺らしていた。


「せっかく農村に行くんだ。二人も、やりたいことがあったら言ってくれ」


「アタシは、旨いモンたくさん食いたいッ! 肉もケーキもぜーんぶ食いに行くンだ」


 確かに新鮮な卵と牛乳が毎朝供給されている農村のケーキは美味しそうだ。肉は……動物見た後に食べるのは気が引けるな。


「コルレは何かあるか?」


「わ、私ですか。そうですね……農村の料理レシピを教えてもらいに行きたいです」


「別にこの旅では侍女の仕事とかそういうのは気にしなくてもいいんだぞ……?」


 俺もこの度では皇子ではなく、ただのゲンジだ。だったら、コルレだって侍女の仕事に縛られる必要はない。


「いえ、私自身の技術を磨くためです。帝国は広く、地方によって様々な伝統料理があります。それらを学ぶ一環として、農村の料理をと思ったのです」


「そ、そうなのか……」


 それって仕事だよなぁと思ったが、言わなかった。話しているコルレからは、熱意を感じたからだ。

 あぁ、コルレは努力家だからなぁ。


 まだ小さかった頃だが、俺は泥団子作りに凝っていたことがあった。ある日、コルレも一緒に泥団子を作ろうと誘ったんだ。コルレが作ったものはお世辞にも団子とは言いがたい、泥の塊だった。


『コルレのへたくそ~!』


 当然だ、はじめて作ったのだから。俺も綺麗に作れるようになるまで一ヶ月かかった。俺がこれからコルレに泥団子の何たるかを教えるんだ!

 そう息巻いていたのだ。


 だが次の日、コルレは完璧な泥団子を作って見せたのだ。泥団子というのもおこがましい、それは宝石のように光りかがやいていた。


『練習しましたよ。まず、砂と水の配合割合はこのようにして……』


『こ、コルレのばかあ!』


 俺は泣きながらコルレの元から逃げてしまった。

 悔しかった。俺が一ヶ月もかけて習得した技を、コルレは一日で追い抜いてしまったのだ。

 あんな綺麗なものは俺でも作れないのにッ!


 コルレの呼び止める声を無視して、走り続けた。


――――――ズボッ!


 俺は足元の何かに躓き、ぬかるみに転倒した。キッと俺を転ばせたものを見た。

 それは、泥団子だった。下手くそな泥団子……それが山のように積み上げられていた。少なくとも100個はあるだろう。

 誰だよ、こんな泥団子作ったやつはッ!


 転んだ俺の元へ、コルレが駆け寄ってきた。


『ああ、ごめんなさいゲンジ様ッ! 私が昨晩作った泥団子のせいで……』


 コルレが作った泥団子……? そうか、コルレはこんなに練習していたのか。俺には一日で100個なんて作れない。コルレは俺が知らないところで頑張っていたのに、なのに、俺は……ッ!


『さっきは、ばかっていって、ごめん……』


『泣かないで下さい! 汚れてしまいましたね、すぐにお風呂に入りましょう』


 そのあとはコルレに身体を洗ってもらって、仲直りしたんだった。


 コルレは、過度なまでの努力家だ。生まれてからずっと一緒にいるというのに、俺は一度もコルレが眠っているのを見たことがない。それは、常に俺より遅くまで起き、俺よりも早く起きて行動をしているからだろう。だからこそ、俺はコルレが少し心配だ。


「おぉ、ごちそうが見えてきたぞォ!」


「はぁ……農村ですよ、フロートさん。まったく、貴女の頭には食べ物のことしかないのですか」


 あたりはすっかり夜で、遠くにポツポツと村の明かりが見える。帝都は夜でも明るかったから、ちゃんと夜が暗いというのは、なんだか変な感じがする。


「……ここから始まるんだ、俺たちの旅が」

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