6.旅の計画
馬車は夕日に向かって走り出した。
「二人とも、聞いてくれ。これから旅の計画を話す」
「おお、甘いもの巡りかァ?」
「ゲンジ様は、食いしん坊冒険仲間さんとは違うんですよ。崇高な目的があるに決まっています」
フロートのはもってのほかとして、コルレは流石にハードル上げすぎじゃないか? 崇高な、なんて言えるほどの目的があるわけではない。
深呼吸をしてから、それを口にする。
「俺はこれから、父上の思い出の地を巡ろうと思う」
「いいんじゃねェか。ゲンジはずっと親父さんに憧れていたもンなァ……」
「いや、違うんだ……えっと、憧れていたのはそうなんだけどさ。これはここだけの話にして欲しいんだけど、父上にはその……愛人がいたんだ」
二人の反応は予想外のものだった。
「ん、貴族にはみんな愛人がいるんじゃねェのか」
「そうですね。帝国史から見ても、愛人がいない皇帝は数えるほどしかいません」
「まあ、それはそうなんだけどさ……身内に愛人がいたってなると、ちょっと複雑な気持ちになるだろ」
父上と本当は血が繋がっていない、とは言えなかった。だが、ひとまず二人は納得した様子だった。
「俺は父上のことをもっと知りたいんだ」
それは、紛れもない本心だった。
「……そのための手段が、先帝が愛人と過ごした場所を訪れることなのですね」
父上がフリューゲルという女性と過ごしたという場所に行けば、もっと言うならフリューゲルに会って話が聞けたら。俺の知らない父上を知ることができる。そしてもしかしたら……俺の本当の父親も分かるかもしれない。
「アタシには難しいことはよくわかんねェけどよォ、ひとまず前のアレ、狩ってきても良いかァ?」
そのとき、馬車が急停止した。
外を見ると、武器を持った男たちが馬車を取り囲んでいた。
「盗賊かッ!? 帝都から出たとはいえ、比較的安全な道のはずじゃ……」
「いえ。恐らくは、暗殺者紛いの集団でしょう。ただの盗賊にしてはあまりにも統制がとれ過ぎています」
俺に暗殺者を差し向けてくるような恨みがあるやつなんて、もう彼女しかいない。
帝都から追放してもまだ俺を殺そうとしてくるのかよッ!
気がつくと、ひと足先にフロートが暗殺者たちの元へと飛び出していた。
「なにッ! この女、俺の剣を拳で……」
「なァ知ってるかァ、じゃんけんで拳は刃物に勝つんだぜッ!」
じゃんけんってそういうゲームじゃねえッ!!
フロートは襲いかかってきた暗殺者の剣を、ゴリゴリの素手で殴って粉々にしていた。いつ見ても、フロートの拳の威力は凄まじい。
「おいフロート後ろ、危ないッ!!」
「やべッ、油断した……ッ!」
フロートは背後から迫る暗殺者に気づかなかった。刺されるッ!
――――――グサッ!
次の瞬間、何本ものナイフが突き刺さった。
「チクショウ、メイド風情がッ……!」
暗殺者の身体に。
振り向くと、コルレが両手にナイフを持って、次なる攻撃の準備をしていた。
「ふぅ、助かったぜ侍女ッ!」
「ですから、専属侍女です。次に間違えたら、今度は貴女に投げますよ」
そこからは実にあっさりと片付いた。
コルレが投げナイフで暗殺者の動きを牽制している隙に、一人ずつフロートが殴り倒していった。俺は何も手出しせず、ただその一部始終を見ていた。
「フロートさん、仮にも冒険者なだけはありますね」
「仮にもが余計だッ! けど、コルレもなかなかやるなァ……」
さっきまでギクシャクしていた二人がなんだか良い感じになっている! 兵士が戦の中で絆を深めるのと同じか……。
「ナイフ投げなんて使えたのかよ」
「ええ、これくらい専属侍女として当然です」
うちの専属侍女、戦闘までこなせるのかよ。むしろ出来ないことを探す方が難しい気がする……。
「ンで、こいつらどうするかァ?」
戦いのあとには、コルレによってボコボコにされた暗殺者たちが転がっていた。血の量こそ少ないが、四肢の間接が曲がってはならない方向に曲がっていて、明らかに致命傷だ。
「紐でくくりつけて引きずっていきましょう。ここからすぐの街にいる衛兵に引き渡せば、それなりの資金になるはずです」
ここから目的地の農村へ向かうまでの間に大きめの街をひとつ通る。そこなら大きめの牢獄があったはずだから、引き渡しが可能だろう。
「それで問題ないか?」
御者に尋ねると、コクコクと何度も頷いた。
やっぱり、俺怖がられてるなぁ……。
街に着くと、すぐに詰め所まで暗殺者たちを運んだ。馬車に引きずられてボロ雑巾のようになった彼らを、衛兵に突き渡す。
「罪人確保の協力、感謝する。これは褒賞金だ」
「ああ、確かに受け取った」
中身は大した額ではなかったが、路銀が増えるのはありがたい。兄上からの手切れ金は全部金貨だったから、小さな買い物に使いにくくて困っていたんだよ。
俺が馬車に戻ろうとしたとき、御者がドンッと足を鳴らした。
「お前、ここに居られる方を誰と心得るッ! 先帝パウロニア陛下が二子、ゲンジ殿下であらせられるぞッ!」
「やめ……」
俺の制止もむなしく、衛兵は土に頭を付けて平伏した。
「この度の無礼、大変失礼致しましたッ! この不敬はどのように償えばよろしいでしょうか」
やめてくれ、怯えないでくれ。
お、俺は普通の冒険者として旅がしたいだけなのに……。
「……頭を上げよ。お主は、成すべき仕事をよく果たしている。これからも励むのだ」
「はッ! ありがたきお言葉……」
涙を流す衛兵を前に、俺はこれ以上何も言えなかった。
皇子と知られてしまえば、そのように振る舞わなくてはならない。帝都から出てまでも、このままは嫌だッ!
馬車に戻って、待っていた二人にあることを告げた。
それは、この旅のルールとも呼べるものだった。
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