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13.責任

「じゃあコルレは死ぬってことかァッ!? 嘘だろ、嘘だよなッ!」


 フロートはジュンの肩を掴んで揺らす。


 事態は深刻だ。皮膚のかぶれだけで済めば、後から俺の調薬でなんとかなるだろうが、毒が回ってしまったらどうしようもない。


「お、オレのせいだ。オレがムキになったから……ッ!」


「二人とも、落ち着け」


 俺はフロートを小突いてジュンから引き剥がし、震えているジュンの肩に手を置いた。


「コルレが助かる方法はある」


「「本当か……ッ!」」


「ああ、確実に助かる」


 その方法とは、霊薬を使うことだ。霊薬とは、聖門教会の聖女だけが作り出すことのできる薬だ。その効果は、あらゆる状態異常の完全回復。使えば、四肢が欠損していようと、死んでさえいなければ元通りになる。

 しかし、霊薬は聖女が時間をかけて生み出すものであり殆ど流通しない。そのため、たった一本で国の2、3年分の予算と同じだけの値段で取引される。


 俺は、その霊薬を一本だけ持っている。

 ……兄上が持たせてくれた路銀が入った袋の底に、霊薬が入っていた。それに気がついたのは、農村で買い物をしていたときだった。支払いをしようと袋に手を入れると、硬貨に紛れてビンが一本入っていたのだ。

 光に当てると黄金に輝く、透き通るような液体。俺はすぐにそれが霊薬であるとわかった。


 だが、どうして兄上は俺に貴重な霊薬を渡したのだろう。


 その疑問を抱えたまま、今日まで袋の中に大切にしまっていたが、こんなに早く使うときが来るとは思ってもいなかった。


「この霊薬を使えば、コルレは助かるはずだ」


「助かるんだなッ、早く持っていこうぜッ!」


 フロートは今すぐにでも走っていきそうだ。

 俺たちがコルレの元へ向かおうとした、そのときだった。


「いいえ、その必要はありません」


 声の主は普段と変わらない様子のコルレだった。

 大丈夫なのかと思って見てみると、虫を潰したはずの手はかぶれてすらいない。


「だって、私も霊薬を持っていましたから」


 そう言って、コルレはスカートの裾からビンを取り出した。

 俺は驚愕した。


 なんてところから取り出しているんだ、暗殺者を撃退したときナイフもそこから出していなかったか? なんてことではない。


 なんと、コルレの手には一本どころではなく、両手で三本ずつ、合計六本の霊薬が握られていたからだ。


「どうして霊薬がこんなに……」


「だって、専属侍女ですから。ゲンジ様に万が一のことがあっては困りますので、霊薬くらい複数本常備してありますよ」


「流石、専属侍女だぜッ! すげェッ!」


 フロートは、コルレが助かったのも相まってか大はしゃぎしている。だが、俺はコルレの言葉がでたらめであるとしか思えなかった。


 王族ですら入手が困難な代物を、一介の侍女が複数本手に入れられるはずがない。じゃあ、コルレはどこから霊薬を手に入れたんだ……?


 俺の視線に気がついたのか、コルレがこちらに来て耳打ちした。


「……後程、()()()()()を話します」


 コルレなりの考えがあるのだろう。俺は黙って頷いた。




 フロートが回復したばかりのコルレに付き添う形で二人とも、先に泊めてもらうコテージで休んでいる。俺とジュンは、庭師の老人――――――ヨセフさんのいる小屋に戻ってきた。


「おぉ、手伝いをありがとう。覚えることが多くて大変だったじゃろう……」


 ジュンは下を向いて、鼻をすすっている。その肩はブルブルと震えていた。


「じいちゃん、オレ……」


「ジュンが丁寧に教えてくれたので、すぐに覚えられました。特にコルレは覚えが早くて」


「そうかそうか。ジュン、よくやったのぉ」


「えっと……ああ」


 ジュンはそれっきり、なにも話さなかった。


 俺たちはそのまま小屋をあとにした。


「何でオレを庇ったんだよッ!! オレのせいで……アイツ死にかけたんだぞッ!」


 ジュンは叫んだ。その目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。


「ジュンのこと、悪いヤツじゃないって思ったから。俺たちがここに来たとき、いろいろ教えてくれただろ。それに、コルレは死んでないし」


「それだけで……?」


「ああ、それだけ。こんなことが原因で、庭師辞めてほしくなかったからさ」


 そもそも、ジュンの話をしっかり聞かずに虫を手当たり次第素手で潰していたコルレにも原因があるからな。


「何でそれを……ッ!」


「わかるよ。ジュンは責任感があるヤツだってことは会ってすぐの俺でもわかった。だから、責任を取って庭師を辞めようとするんじゃないかって思ったんだ」


 会ったときから、怪我をしたヨセフさんの代わりになろうと頑張っていた。俺たちへの当たりが強かったのは、部外者に大切な仕事を荒らされたくなかったからだろう。コルレが毒に触れたときも、ジュンはずっと過呼吸で震えていた。


「オレは、オレは……ッ! うわぁぁああん!」


 俺は泣き叫ぶジュンを抱き締めた。

 ジュンは、あのとき――――――兄上が俺の追放を決めたと聞いて何を信じれば良いかわからなくなってしまったときの俺と同じだ。色々なことが一気に起きて、たくさんの感情が押し寄せてきて、止めどなく溢れてくる……。

 あのときは、俺がコルレにしてもらったから。今度は俺が、ジュンにしてあげる番だと思ったんだ。

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