表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

12.オーキッドの花

「タクラン庭園といえば、オーキッドの花が有名ですよね」


「それって、食べられるのかッ!?」


「毒はありませんが、普通食べませんよ」


 フロートは露骨に残念そうな顔をする。


 タクラン庭園は、公爵家が所有する庭園でも特に有名な場所だ。というのも、この場所は帝都のある皇帝直轄領と、タクラン公爵領の境に位置しており、貴族たちが近場で花見をするのに都合が良かったからだ。


 しかしそれも過去の話。母上が亡くなって、カイザリーンの実家であるヒステリア公爵家の力がさらに強まってからは、人がめっきり来なくなった。ただでさえタクラン公爵領内にあるというのに、その家紋であるオーキッドの花が育てられているのだ。だから、多くの貴族たちはヒステリア公爵家の不況を買うことを恐れて、タクラン庭園を訪れることを控えている。


 馬で領境を超えて、すぐのところがタクラン庭園だ。

 関所で冒険者免許を見せると、面倒な手続きや通行税を免除して通してもらえる。

 免許は偽造できない。だから免許を見せたとき、俺が皇子であることがばれて、危うく大事になりそうになるなんていうアクシデントもあったが、無事にタクラン公爵領に入ることができた。


「ゴツいおっちゃんが裏から出てきたときは、流石に焦ったなァ……」


「あの関所の最高責任者ですよ。反社会的な組織の人が出てきたような言い方をするべきではありません」


 冒険者免許を見せるたびに大事になるなんてたまったものではない。

 タクラン庭園は貴族や富裕層のための場所だ。安全確保のため、身分の確認が必須だから俺はふたたび免許を見せる必要がある。だが……。


「庭園では、俺はフロートの連れという設定で入るぞ」


「ゲンジのことだから何か考えがあるンだろうけどよォ、なんでだァ?」


「そうすれば、俺の身分を明かさずに入れるんだ」


 庭園で花見をする際、貴族は誰も伴わずに見に来るか。それは否だ。メイドや護衛の騎士を連れて入る。そうなると、いちいち一人ひとりの確認などは面倒だ。そこで、多くの庭園では代表者の責任のもと、連れの者は確認不要で入園することができるのだ。


「冒険者二人と連れが一人だ」


 コルレとフロートが免許を見せて、俺たちは庭園の中に入った。


「うわッ、緑だなァ……!」


「それはそうですよ。オーキッドの花の見頃はもう少し先ですから」


 皇宮を出る前にオーキッドの花を見たけれど、あれは温室だから開花できるのだ。自然界でオーキッドの花は春の中頃以降に咲く。もうだいぶ暖かな陽気だから、開花は近いだろう。


 俺たちはしばらく庭園の中を歩いたが、やはり人がいない。せめて古くから働いている庭師でもいれば、父上とフリューゲルのことについて聞けるのだが……。


「おいお前ら、そこで何をしているんだッ!」


 ふり返ると、ハサミとジョウロを持った少年がこちらを睨んでいた。背丈は俺より少し大きいが、同じくらいの年に見える。


「知りたいことがあって来たんだけど、昔からここで働いている人はいないか」


「じいちゃんなら今、腰を痛めて休んでるんだ。だからオレがじいちゃんの代わりに答えてやるッ!」


 話振りからして、じいちゃんと呼ばれている人がこの庭園の管理を任されている庭師のようだ。


「じゃあ、ここに先帝陛下が来たことはあるか」


「あるぜッ! オレが生まれるよりもずっと前だけどなッ! へへん、他に聞きたいことは?」


 やっぱり父上はこの庭園に来ていたんだ。だとすると、フリューゲルと来たという思い出話は信憑性がある。


「陛下と一緒に、誰か来ていたか教えてくれ」


「え、えっと……入園記録を遡れば……ッ! お、オレは忙しいから、そろそろ行くぜッ! じいちゃんならそこの管理小屋にいるから、気になるならそっち行け」


「ありがとう」


 少年はすたすたと去っていった。


 入園記録にフリューゲルの名前があれば、そこから何かわかるかもしれない。少なくとも、彼女が貴族の子女だとするならば、記録から家名がわかる。そうすれば、あとはその家を調べていけば、芋づる式に情報を得られるだろう。


「よし、あそこだな」


 小さな丸太小屋の壁には、農具が立て掛けられていた。この中に、フリューゲルを知る手掛かりがあるかもしれないんだ!


 俺はドアをコンコンコンと鳴らした。


「どうぞ」


 少し掠れた老人の声だった。さっきの少年が言っていたじいちゃんだろう。

 扉を開けて俺たちは中に入った。


「こんな時期に客人とは、珍しいのぉ……。おや、そちらの方はタクランの血を引いているのかい?」


 老人は俺のことを見て言った。

 確かに、俺の母上はタクラン公爵家の人間だ。


「まぁ、そんなところです。でも、どうしてわかったんですか」


「タクランに仕える者なら一目でわかる。全てを見透かしていまいそうなほどに澄んだ紫色の瞳……お主はそれを色濃く引いておる」


 確かに、この帝国に紫色の瞳を持つ人は多くない。この老人の言うことが本当ならば、俺の本当の母上は、やはり母上……? じゃあ、フリューゲルは何者なんだ。


「ここまで血が濃いということは、直系の誰かの御落胤……いや、詮索するのはよくないのぉ、すまぬ」


「いえ、俺はただの冒険者ですから」


 俺は、旅をしていることを話した。


「しかして、お主ら、儂に何の用じゃ?」


「先帝とこの庭園を訪れた女性のことについて、教えてください」



 よろしければ、いいね・高評価ポチッとお願いします!

 出来るだけ毎日投稿いたしますので、ブクマもお頼み申し上げますm(_ _)m

 皆様のお心が、筆者の励みになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ