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7.乙女ゲームの脇役 * ルルーシュ視点


私には前世の記憶がある。


気づいたのは幼い頃、年の離れた兄に遊んで欲しくて、追いかけて転んだ時だった。

前世の私は混雑する駅のホームで、後ろの人にぶつかられ、ホーム下に転げ落ち、事故死した。列車の急ブレーキの音、人々の悲鳴。光が近づいてきた時の恐怖。

痛みは覚えていないけど、恐怖は記憶に刻まれている。


だから、この世界に、まだ列車が無いことが、私にはとても嬉しかった。


その前世で楽しんでいた乙女ゲームと酷似していると気がついたのは、随分と後の事だった。

だって、私はスチルの片隅に写って居ただけの脇役だったから。


ある日、国の名前と王様の名前、学園の名前などに、とても耳慣れたものがあり、まさかと思いながら、記憶と照らし合わせて気がついた。


脇役の私の役割は、主人公などのメインキャラと同じクラスにいる、目立たない令嬢。

悪役令嬢である、マーガレット公爵令嬢を教室の隅から憧れの目で見ていた令嬢達の一人。

そして断罪される令嬢に憧れを壊された事を嘆く、令嬢達の一人だった。

物語には全く関わらないように見えるけれど、はっきりはしない。


でも、私は、この悪役令嬢が好きだった。主人公よりも。

そして、私が一番好きだったキャラは、マックス・ハモンド侯爵令息。騎士団長の息子だ。

攻略対象なのだが、殆ど表情が変わらない。唯一、彼のルートでのみ見ることができる、主人公に向けるはにかんだような、少し照れくさそうな微笑みが凄く素敵で、大好きだった。


騎士を目指しているだけあって、背も高く、ガッシリした彼だが、成績も悪くなく、いわゆる脳筋キャラではなかった。

断罪の場でも、悪役令嬢を痛ましげに見送り、その後、令嬢の父親に皇太子を庇って刺殺されるのだ。

そうどのルートを選んでも殺されてしまう。彼のルートにはハッピーエンドはなかった。彼のルート以外では、刺殺されてその場で亡くなってしまうのだけど、彼のルートだけは偶然皇宮に現れた主人公に看取られながら死ぬのだ。

掠れた声で、

「すまない。」

と、一言呟いて。


私は彼の最期を読んで泣いた。凄く泣いた。

彼にそんな悲しい最期にさせなくてもいいのに、と。彼にはもっと幸せになって欲しかった。

彼はそんな悲劇的な最期を迎えるのもあり、人気が二分するキャラではあったのだが、CVが低音で人気の声優だったので、キラキラさが少ないのにファンは多かった。


私もあの低音にゾクッときた。それはもうゾクゾクと。


この世界の学園は17歳から19歳。貴族でも自由恋愛が多く、学園でお相手を求める人が多い。


前世の私も目立つ人間ではなかったけど、今世の私は、好きだった悪役令嬢を助けてあげたいと思っている。

両親と兄には10歳を過ぎた頃に前世の記憶があることを告げた。この世界の常識に比べ、数学など、前世の方がはるかに進んでいて、なんの才能もない私が、まるで天才のように思われそうになった時だった。


家族は私の突拍子もない話を丁寧に聞いて、信じてくれた。


学園に入学し、スチルで見た皇太子達の実物を見た時の感激は忘れられない。

ゲーム以上に寡黙なマックスは、ゲーム以上にいい声で、私は思わず悶えそうになってしまった。

基本直立不動の彼が、スっと横を眺める眼差しは、私達脇役をドキドキとさせた。

彼はこんなにも色気があったのだろうか?


彼に恋焦がれる令嬢は後をたたない。

彼は次期侯爵で、彼の両親は家柄に拘らないと言われているので、最優良物件として、上位貴族から、下位貴族まで、皆が狙っている。

宰相令息の、ギリアン・マクスウェルも人気はあるが、私の好みはマックス一択だ。

と、言っても、お近づきになる機会もないし、ただの憧れに過ぎないけど。


だって、私は脇役だもの。


その彼の家から、何故かお茶会の招待状が来た。


政治に関わらない父は、伯爵とは言いながら、裕福と言うほどではなく、かといって貧しい訳では無い。

いわゆる貴族世界における脇役だ。


その我が家がなぜ招待されたか分からないけど、喜んで参加させて頂くことにした。

だって、彼の家を見る事ができるのだ。スチルでチラリと彼の部屋が写るだけで、殆ど見れないのに、その庭を歩けるなんて、ファン冥利に尽きる。


見たい!触れたい!歩きたい!!


そして今、薔薇に囲まれた庭園で、私は推しの彼にエスコートされて歩いている。


二人だけで!!


はぁ、夢みたい。覚めないで欲しい。


私の歩調に合わせてくれる彼はとても紳士で、私の心臓は壊れそうだ。ドキドキする。

きっと顔は赤くなってると思う。熱いから。


彼は私をエスコートして、中庭の噴水に案内してくれた。

そこにあるベンチに腰をおろすと、テーブルにお茶とお菓子が運ばれてくる。


彼は侍女が下がって行くのを見送ってから、私に声をかけた。


「ルルーシュ嬢、俺は人と話すのが得意ではない。」

「そうなのですか?」


あまり表情には出ていないが、少し困った顔だ。


「そうだ。しかし、あなたとどうしても話がしたかった。」


え?私と?


「今日のお茶会も、私があなたと話をすることができるようにと、母が開催したものだ。」


私と話すため?それってどういう事?



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