5.話したい相手
翌朝、早朝に起き、朝稽古を済ませた俺は、両親と共に朝食をとるため、リビングに向かった。
「おはようございます。昨夜は申し訳ございませんでした。」
「おはよう。マックス。席に着きなさい。」
「はい。」
俺の前に素早く朝食が並べられる。学園の食事も悪くは無いが、やはり家の食事にはかなわない。
久しぶりの我が家の朝食を楽しんでいたが、両親の物言いたげな雰囲気も少し気になる。
それでも両親は俺が食べ終わるまで待っていてくれるようだ。
食べ終わり、口元を拭い、紅茶を一口。
「マックス、学園はどうだ?」
どうとは?二回目だし、俺の視力、聴力は学園とは関係ない。
「楽しいか?」
「はい。」
「試験の成績も良かったようだな。」
「はい。」
父上に褒めて頂けた。頑張ったかいがあったな。
「特に数学が良かったか?」
「はい。」
「……。」
父上の言われるとおり、俺は数学が好きだ。剣の次に好きかもしれない。流石は父上だ。よくわかっておられる。
「マックス、学園で、親しくなった方はできたのかしら?もちろん、新しくと言う意味よ。」
新しい知り合い?…………考えてみたが、殿下達以外とは食事もしていないし、言葉を交わしたことがない。
時々、廊下で落し物を拾うが、そっと机の上にお届けしていて、会話を交わしていない。
その後、特にそれに言及される事も無いので、俺が拾った事に気づいてはいないのだろう。
「いいえ。」
「三ヶ月も経つのに?」
「はい。」
「マックス、なぜ誰とも親しくなっていないのだ?」
なぜと言われても。世間の人々はそんなに簡単に親しくなれるものなのか?
「はぁ、お前と言うやつは……」
何故か父上を落胆させてしまったらしい。
「ねぇマックス。長期休暇の間にあちこちの夜会に参加しましょう。」
「……」
面倒だな。ああいった席の食事はあまり食べられないし、退屈で好きではない。
「だめよマックス。あなた、今、面倒とか思ったでしょう!そうね、私やお父様もあまり好きではないわ。しかし、あなたと違って私達は他の方々ときちんと会話はできるのよ。わかる?」
「……」
俺もさっきから両親と会話をしていると思うのだが、何か足りないだろうか?
「マックス、会話が成り立っていると思ってるでしょうけど、大きな間違いよ。あなた【はい】と【いいえ】と無言だけでしょ?それは会話と言わないのよ。」
「……」
そうなのか?不自由していなかったが。と、言うか、普通に会話していたつもりだが?
「喋らないから、余計に無表情になるんじゃないの!」
「……」
知らなかった。そうなのか?
「あぁ、もういいわ!とにかく、話をすることに慣れなさい。」
「はい。」
俺はその時、閃いた。
彼女と話をすれば良いのではないか?
考えてみれば、あの話は俺主導で考えなければならない話だ。確かにはいといいえだけでは相談できない。
それに二人で話をしていても、母上達に、会話をする事を事前に話しておくことは悪い事ではない気がする。
「母上。」
「どうしたの?マックス。」
「話をしたい相手がいます。」
「あら、どなた?殿下?マクスウェル家のギリアン様?」
「いえ、ルルーシュ・ランペルージ伯爵令嬢です。」
「え?あら、あらあら、まあ、令嬢!」
「はい。」
「もちろんよ。もちろん、歓迎ですとも。我が家にお招きしてもいいのよ。あぁ、でも、若い方は外で気楽に会える方が楽しいわよね。そうそう、最近新しいカフェが人気ですってよ。ケーキも評判なのよ。お誘いしてはどうなの?」
「カフェ?女性はそのような場所を好まれるのですか?」
「ええ!そうですとも!ああ、マックス。あなたちゃんと話せるのね。」
「……」
いや、普通だろう?
「その方はどんな方なの?どこに惹かれたのかしら?どんなお話をしたの?」
「何も。」
「何も?お話した事もないの?あなたの片思い?その方には他に好ましい男性がいらっしゃるのではないの?」
「……」
どうだろうか?知らないが……。
それに俺が話をしたいのは未来の話だ。昨夜の令嬢は可愛らしかったが……。
「マックス、あなたどうやってその方とお話をしようと思っているの?学園ならいざ知らず、休暇中よ。」
「……」
そうだ。休暇が終わるまで待つべきか?しかし、学園内でないからこそ、相談しやすい気もするのだが。
「我が家でお茶会を開いて、令嬢をお招きしましょう。わかるわね、マックス。ちゃんと令嬢とお話をするのよ!」
なんだか母上の顔が怖い。俺は無言でこくりと頷いた。
お茶会かぁ。ルルーシュ嬢は来てくれるだろうか?