25.乙女ゲームの再開
今回の黒幕はローガン公爵と、マテウス大司教だと思うのだが、まだ、なんの証拠も掴めていない。
さて、これからどうするかと話をしていたところで、コンコンとノックの音がした。
「誰だ?」
誰も近づけないように指示していたのに誰だろう、と思いながら、マックスが問いかけると、
「マーガレットです。」
と、返事があった。
カーライルが身軽に立ち上がると、扉を開ける。
そこには、マーガレットとマリアンヌが立っていた。
「相談があって来ました。ルルーシュさんには他の人達とリビングで待機して貰っています。」
「相談?」
「はい。殿下。」
「聞かせてもらおうかな。」
マーガレットとマリアンヌの目には、強い決意が見える。
「殿下達が相談されている間に、私達もマリアンヌさんから話を聞きました。それで、皆で考えたんです。」
「何をしようと言うの?」
「お芝居をしようと思います。」
「お芝居?」
「マリアンヌさんが、しようとした事を、そのまましてみようと思うのです。殿下達は、もう今回の騒動の元がわかっていらっしゃるのでしょうか?それを止めるだけの確たるものが、既に掴めているのでしょうか?」
「いや、まだだ。」
「でしたら、時間稼ぎになりますし、相手を油断させることもできると思います。どうか、私達にも協力させてください。」
「しかし、マーガレット、君を苦しめる事になる。私がそれを我慢できないんだ。」
「わかっています。ルルーシュさんに聞きました。悪役令嬢と言うらしいです。お任せください。優雅に悪役令嬢を演じてご覧にいれますわ。」
マーガレットは楽しそうに微笑んだ。
「マリアンヌ嬢、あなたは良いのか?」
「私は大丈夫よ、ギリアン様。元から覚悟していた事だし、今回は皆の協力があって、お芝居みたいなものだから。」
マリアンヌも明るく微笑んでいる。
どうやら男三人よりも、女性陣は肝が座っているようだ。思わず顔を見合わせ、苦笑いをしてしまった。
「わかった。マーガレット達の提案に乗ろう。」
「殿下、ありがとうございます。殿下も、頑張ってお芝居お願いしますね。」
「え?私も?」
「当然です。敵の狙いは殿下ですよ。ちゃんとマリアンヌさんに夢中の振りをお願いしますね。」
「マーガレット!」
「ふふっ、殿下がどんな表情をされるのか、楽しみですね。」
「この二人は良いのかい?」
「ギリアン様は大丈夫です。もうマリアンヌさんに夢中ですよね。マックスは……元々表情が読みにくいし、できるだけ、マリアンヌさんと一緒にいるようにしてくれるだけで良いです。」
「はぁ、私だけなんだね。頑張るよ。」
「それで、期間なのですが、マリアンヌさんは特に時期を指定されていないそうなので、あまり長くなると隙が出てしまうでしょうから、秋の学園創立記念パーティーまでとし、そこで、断罪劇をしてはどうかと思うのです。」
「ええっ?!そこまでするの?」
「はい。私を国外追放にして頂きます。ただ、予め、秘密にする条件で、陛下や宰相閣下、騎士団長には話を通す必要があると思います。」
「そこまでするなら、必要だね。」
「そして、協力する皆さんの為に、後で罪に問われないよう、これは、陛下達のお許しの元行ったのもので、協力したものについては、その行動を一切咎めないと言う、一筆を貰ってください。」
「わ、わかった。」
少したじろぐ三人を見ながら、マーガレットは華やかに笑顔を見せた。
「とても楽しみですわ。この別荘にいる間に、シナリオを仕上げて、出来れば練習もしなくては。忙しくなりますわよ。」
「シナリオ?」
「そうです。それは、マリアンヌさんとルルーシュさんが、請け負ってくれました。今、ルルーシュさんが、シナリオの元原稿を書いて下さっています。さあ、リビングに参りましょう。もうお昼ですわよ。お腹が空いて来ました。お昼は女子生徒の皆さんの力作です。夕飯作りには、私も参加させて頂きます。」
事態は思わぬ方に転がっていってしまったが、かえって良かったかもしれない。皆の力を合わせれば、事態は打開できそうな気がする。
リビングには、昼食とは思えないような料理が並んでいた。
どうやら参加した女子生徒に、作りたいメニューを確認したところ、誰もがスイーツを希望したようで、甘くない料理はサンドイッチだけという状況だった。
クッキー、パイ、タルト、ケーキ、プリン等など。
男子学生は全員黙ってサンドイッチを摘んでいた。出来ることならば、夕飯は普通の料理でありますようにと願いながら。
シナリオは、できた部分から、全員に公開されたが、それを見たカーライルから、何度も待ったがかかった。
ギリアンも顔が耳まで赤くなっている。
たっているだけで良いと思っていたマックスもセリフがあって困惑した。
三人の気持ちはただ、恥ずかし過ぎる、だったが、女子生徒にはとても好評で、彼らの意見は一言も取り上げて貰えなかった。