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レッドパンサー  作者: 檜狐
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第1章 4話

「忘れ物はない?」


 母の京子(きょうこ)から声がかかる。

 父、智治(ともはる)の葬儀から1か月が経ち、ここ最近になって母の様子も安定しているように見えるが、父の数少ない写真を手にとり泣いていることを子供達は知っている。


 勝虎(まさとら)赤城皓士郎(あかぎ こうしろう)と連絡をほぼ毎日のようにしているが、父の遺体と死彪の行方の情報だけはつかめずにいた。


「大丈夫だよ、母さん。1日だけの旅行なのだから」


「兄貴、きーつけて」


 3歳下の妹から声がかかる。幼いころにしか会ったことが無い父親のことは覚えておらず、むしろ物心がついた時に父はいないものだと育ったからなのか、母ほどダメージを受けなかったらしい。

 ただ、親族が亡くなるということに関して彼女なりに考えるものがあったのだろう。前より活力が乏しく感じられる。


「はいはい、わかったよ、母さんのことを頼んだぞ。(あおい)


「大丈夫。空手有段者の私に適うものなんていないよ」


『赤城さんからの護衛がいるらしから、そこまで家族を心配する必要はないか』

 勝虎は玄関先で家族との会話を楽しんだ後、中学から親友に会うために家を出た。


 家を出た勝虎を待っていたのは黒塗りのリムジン──。

 

 何を隠そう、彼の親友とは日本最大の名家である『京極(きょうごく)家』の御子息たちであるのだ。

 この『京極家』はどれほど凄いかというと、多くの政治家や大臣、重要官職に就いている人のみならず、世界各国の権力者ですら『京極家』の取り扱いには細心の注意を払うほどなのだ。

 なぜ、庶民である勝虎がこれほどの超上流階級の人と交流があるのはまた別のお話──。


「おーい、とらぁー!!早く早くー」


「やめろって、のり。ここは京極の敷地じゃないのだから静かにしろって」


「いいじゃんか、なお。だってあいつに会うの2年ぶりとかになるんだぞ?」


 私有地ではないのに窓を開けて大声で言い争う双子。この双子こそが天下の京極家の御子息達。京極 直弘(きょうごく なおひろ)京極 典弘(きょうごく のりひろ)

 そんな2年前に会って以来、全く変わっていない2人に苦笑しながら勝虎は黒塗りのリムジンへと向かった。


「お久しぶりですね、勝虎様」


「2年ぶりになりますね、漆原(うるはら)さん」


 リムジンのドア付近には京極家の筆頭執事の漆原 宗助(うるはら そうすけ)がドアを開けて待っていた。会ったのが2年前なのに全く変わっていないから若作りでも密かにしているのではと勝虎は思っている。


「お父様のことはご愁傷さまです。実は私も貴方のお父様である智治様とは面識があり、交友関係もあったのですよ。彼はまっすぐな方で一度決めたら二度と変えない人柄でした。実に惜しい人を亡くしました」


「え、え!?漆原さん、父のことを知っているのですか?」


「えぇ、もちろん。さては、お父様からなにも聞いてないのですね。ならこれ以上の話は言わないほうがよろしいでしょう」


「漆原さん。勘弁してくださいよ。たださえ、母さんから父さんのことを教えてくれないんだよ。少しぐらい教えてくれてもいいではありませんか」


「ふむ──、いいでしょう。しかし、全てのことは然るべき時が来たら全部お話ししましょう。今、私の口から言えることは1つだけです。貴方の御父上である智治様は生きていれば今後の世界の動きを大きく変えたでしょう」


 漆原宗助はそう言うと険しくしていた表情からうって変わり、いつもの京極家筆頭執事の顔に戻り勝虎を双子が待つ車内へと案内した。


『今後の世界の動きを大きく変えた……?赤城さんといい、京極家の漆原さんといい、父さん、いや、橋本智治。あんたは一体何者なんだよ──』


 双子の会話に交じりながらも勝虎の頭の中は父である橋本智治のことで一杯だった。


◆◆◆

(勝虎が旅行へ行く数日前)


 何者かが1本の蠟燭のみで照らされた一室で会談をしている。かすかに動いていて確認できる影は3つ。


『それで、今回の議題は何だ?つまらないことを言ったら食い殺すぞ』


『おー、怖い怖い。これだから儂は筋肉にものを言わせる奴は嫌いなんじゃよ』


『なんだと──』


『2人ともそこまでにしなさい。今、ここで争ってもいいことないわ』


『ちっ、ヒルに助けられたな。エパロのジジイ』


『そういうお主こそ、儂と戦わなくて安心したんじゃろ?ジムの小童(こわっぱ)


『おい、男ども。これ以上余計な話をしたら、首の骨へし折るわよ』


『『は、はい……、すみませんでした』』


『それで、今回の議題は殺された黒樫と橋本の席を誰が埋めるかということよ』


『ったく、これだから若作りしているババアは……』


 ジムが呟くと、ジムの頭にヒルの蹴りが目にも止まらぬ速さで飛んできた。

 ジムの頭があった背もたれ部分にヒールが突き刺さっていた。


『何か言いましたか、ジム──?』 


『いいえ、全く。しいて言うなら真っ赤な下着は似合わないぐらいでしょうかね』


 ジムは銃弾とさほど変わらい速度の蹴りでも余裕があるような表情を見せていた。


『やっぱり、本気で殺そうかしら』


 ヒルは殺気を強めて呟いた。


『おい、ヒル。あんな脳筋はほっておけ。さっきの話じゃが、儂はあの2人の後釜は当分いらぬと思うぞ』


 誰が脳筋だと騒いでいる者が1名いるが、2人はお構いなしに話し始めた。


『あら、どう言うことかしら。こっからこの組織を大きくするためにも必要かしらと思ったのだけれども』


『だからだ。あの武士(もののふ)ども、どうやら我々の同胞の数が増え始めていることに感づいたようで最近になって弾圧が強うなり始めておる』


『なるほどね。息を潜めるためにも活動を制限したほうがいいということかしら』


『そ、ジジイの言葉に賛同したかねーが、俺も当分はこの3人でやっていったほうがいいと思う。あの2人がいた時はまだ活動が軌道に乗っていなかったから必要なだけであって、今はいらないと俺は思うぜ』


『ふん、脳筋にはたまにはええことを言うな』


『んだと──』


『同じことを何度も言わせないでもらえます──?』


『『はい、すみません』』


『じゃ、当分は後釜を決める必要はないということで──。もう1つの話なんだけれども、あの橋本の家族の処遇のついてはどうします?』


『『裏切者には死をもって償わせる』』


『では、そのようにしましょうか。襲撃は近日中にしましょうか』


 ヒルがそう締めくくると3人は立ち上り、部屋から立ち去って行った。


 橋本家に死の手がだんだんと忍び寄っていた。

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