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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
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(交錯)18

 山南達は信玄公の顔は知らないので、

勘でこれと思った者を狙撃すると言う。

大物見に信玄公が混じっている公算は高いだろう。

警護の数からすると、たぶん、いる。

しかし、それらしいのが十数騎。

さて、どれが信玄公だろう。

土方が冷静に懸念を口にした。

「確実に仕留められるのなら問題ないが、外したら拙い。

それの射程を知られ、警戒されるだけだ」


 話し合いの結果、通常の銃と合わせて狙撃する事にした。

十数丁で狙い撃ち、そのうちの三発が着弾するのなら、

まぐれとしか思われぬだろうと考えた。

思慮が浅いが、信玄公狙撃を優先する事にした。

結果は神のみぞ知るだ。


     ☆

     ☆


 武田信玄は城の一角が騒がしくなったのに気付いた。

真正面の櫓がそうだ。

人が激しく動き回り、板戸を大きく引き上げた。

十数人が此方を向いて

何やら構える様子。

あれは鉄砲。

ここまで届くとは思えない。

威嚇か。

 十数丁が一斉に火を噴いた。

兜に衝撃。

何かが当たり、足下に落ちた。

弾。

飛んでは来たものの、威力はない。

 と、隣の原虎胤が倒れた。

頬から血が噴き出していた。

だけではない。

三枝新十郎、室住虎光の二人も倒れた。

三枝は首、室住は肩を撃ち抜かれていた。

唖然とする信玄を馬廻りの者達が強引に馬に乗せた。

「お逃げ下さい」馬の尻を激しく叩いた。


 信玄は大きく退き下がり、馬を止めて後ろを振り返った。

城の櫓を見ると、更なる銃撃はなかった。

信玄の下に重臣達が追い付いて来た。

馬廻りの者達が三人の遺体を回収して来た。

ここなら安全なので改めて三人を見た。

何れも事切れていた。

一人の重臣が首を傾げた。

「某も弾が当たりましたが、鎧で弾き返しました。

この三人は運が悪かったのでしょうな」


 信玄は考えた末に決断した。

「この城は迂回する。

迂回して状況を変える。

稲葉山城を目指す。

信繁の隊にも使番を送れ。

ゆっくり稲葉山城を目指せと」

 重臣の一人、真田幸隆が尋ねた。

「誘き出すのですな」

「乗ってくれば野戦で決着をつける。

こなければ稲葉山城ではなく、領内全域で稲刈りだ。

鎌は持ってきているな」

「当然です」


     ☆

     ☆


 私は城の北側の櫓に上がった。

遠ざかる武田軍の後尾が見えた。

ゆっくり迂回しながら明智家領内へ侵入して行く。

私は隣の芹沢に尋ねた。

「あれは誘いか」

「ええ、でも構ってやらねば領内奥深く入って行くでしょう」

「面倒臭い誘いだな」

「それが戦です。

如何します、殿にはここで待って頂くと私共は助かります」

 聞いた私の心は曇った。

「私は邪魔か」

 芹沢は真摯な目で私を見た。

「そうは申しません。

申しませんが、殿には安全な場所にいて欲しいのです。

ことに今回は遭遇戦になります。

どう転ぶかは誰にも分からないのです」


 私は沖田を残して旗本隊が出陣した。

これに丘に布陣していた全部隊が合流した。

指揮官は近藤。

参謀は芹沢。

旗本隊五千。

城詰めの第十番隊千。

美濃与力衆二千。

近江与力衆二千。

計一万。

 敵武田軍は二万。

別動隊が一万。

 私の手元の兵力は沖田の騎馬隊千。

城詰めの第十番隊二千。

計三千。

参謀は大石。

守るのに不足はない。


 芹沢が近藤に言う。

「この先が台地になっております。

台地を下る所を逆落としにしましょう」

 台地に上がった先に武田軍の後尾が見えた。

大軍の弊害で下るのに手間取っているのか、動きが緩慢だ。

それを見ていた芹沢の顔が強張った。

「どうやら罠に嵌ったようですな」

 後尾の軍勢がこちらを振り返った。

慌てる様子もなく、自然体で戻って来た。

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