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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
98/248

(交錯)17

     ☆


 武田信玄は軍勢を率いて美濃に入った。

東美濃で遠山一族が加わり、兵力を更に膨れ上がらせた。

およそ二万。

飛騨経由の実弟・信繁の軍と合わせれば三万近い数になる。

東濃口と飛騨口の二方向から美濃を蹂躙するつもりでいた。

その際、邪魔になるのは東濃城。

明智家が東方への備えとして築いた城だ。

 事前の調べでは、城に詰めている敵兵は三千。

数が少ないからと言って侮るつもりはない。

城が見える位置に布陣し、各所に物見を走らせた。


 使番も走らせた。

内応を約した美濃の国人や地侍に従軍を求めた。

普通であれば武田軍が現れるや、約に従い直ちに参陣するもの。

ところが一兵も姿を見せない。

そこで使番を遣わして催促した。

「何処も留守で御座いました」

 使番が急ぎ戻り報告した。

約した家々の者達は姿を隠していると言う。

舐められたものだ。

奴等だけではない。

途次にある国人や地侍、その全てが姿を隠していた。

武田に抵抗せぬばかりか、全てを明け渡した。

如何なる勝算に基づくものなのか。


「東濃城の後方の丘にも敵勢が陣取っています。

旗印からすると明智家当主率いる旗本隊、およそ一万かと」

 戻って来た物見が報告した。

頭が痛くなってきた。

甲斐忍びによるとだが、東濃城は堅固な造り。

力攻めでは、こちらが大量の被害を被る。

時間が許すなら大軍での兵糧攻めしかない。

そう聞いた。


 よりにもよって明智家当主が出張って来た。

歓迎すべきか否か・・・。

それは明智家が美濃防衛に全力を入れる証とも言えた。

これで今川家との約定である牽制は為せた。

が、逆に武田家の美濃攻略が難しくなる。


 信玄は大物見を行った。

騎馬の一隊を率いて東濃城に接近した。

敵勢は全て城へ退いているようで会敵はない。

弓や銃の間合いの外から見分した。

「これは力攻めは無理ですな」付いてきた重臣達が口々に言う。

 広い水堀、高い城壁、各所に建てられた櫓、無数の狭間。

一見しただけで難攻不落と分かる。


      ☆

      ☆


 私は東濃城に入った。

それには旗本隊半数を伴った。

隊長・近藤以下三千。

千人頭は沖田と山南。

参謀は芹沢。

 先に城に詰めていた十番隊三千を率いているのが三千人頭なので、

階級に従って近藤の指揮下に入れた。

命令系統の上位者は近藤。

参謀は芹沢。

私はお神輿。

 旗本隊の残りは三千頭・土方に率いらせ、城後方の丘に陣取らせた。

そちらの千人頭は長倉と斎藤。

参謀は大石。

これに美濃の与力衆二千、同じく近江の与力衆二千を加わらせた。

計七千、それを土方に任せた。


 物見からの報告を聞いた。

進軍路、兵数、主な武将の名前、信玄の位置、小荷駄の位置、

美濃から武田に靡いた者達の名前等々。

武田軍を丸裸にした。

地元の利を活かしたとも言えるが、

自領を戦火に晒すのは褒められた行為ではない。

反省、反省。

次からは敵が侵攻の気配を見せたら、こちらから攻め込もう。

大切なのは自領の民の安寧だ。

それより大切な物はない。


 そんな私に急報が来た。

明智家忍びの元締め・猪鹿虎永が持って来た。

「信玄公自ら大物見に参った模様です」

 私達は猪鹿の爺さんの案内でその櫓に駆け付けた。

最上階から外を見た。

緑の稲田に彼等を見つけた。

騎馬隊が稲田を踏み潰していた。

掲げられる旗はないが、遠目にも如何にもそれらしい空気を纏っていた。

 周囲を警戒する者達は別として、真ん中に十数騎が集まっていた。

彼等が着用している鎧兜は明らかに高い身分を現していた。

そんな彼等がこちらを見て、何やら話し合っている様子。


 山南が私の傍に来た。

「信玄公を狙い撃ちますか」

 ここからでは射程外だと言う事は私でも分かる。

でも考えは面白い。

歓迎の意味で号砲は意味があるだろう。

「任せる」

 山南が後ろの配下達を振り返った。

「許可が下りた」

 配下が見慣れぬ銃を運んできた。

重厚にて長い銃身。

一丁の銃に二人掛かり。

それが三丁。

私はもしやと思って尋ねた。

「狙撃用を開発したのか」

 山南が得意げな顔。

「そうです、試用済みです。

今はこの三丁ですが、直に各隊に行き渡ります」


 山南と彼の配下二人が狙撃準備を終えた。

私は直前で疑問が生じた。

狙いを付ける山南に尋ねた。

「届くのか」

「ギリギリですね」

「信玄公の顔を知っているのか。

それにここから顔がはっきり見えるのか」

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