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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
97/248

(交錯)16

     ☆


 小谷城の居館の大広間で私は報告を受けた。

まずは加賀担当の者。

「加賀にて一向一揆が再燃しそうな雲行きです。

これには甲斐の武田が煽っている気配があります」

 飛騨担当の者。

「飛騨の姉小路や江馬等の国人衆より使者が参りました。

武田の侵攻間近と申し、大至急の救援を求めております」

 美濃担当の者。

「東濃の遠山一族それぞれより救援を乞う使者が参っております。

こちらも武田の侵攻が間近いそうです」

 三件とも武田絡み。

思惑が透けて見えた。

当家が織田家へ加勢を送れぬように、牽制しているのだろう。

私は驚きよりも先に呆れた。

「今川が海道一の弓取りなら、武田は街道一の蚤取りだな」

 大人衆筆頭・伊東が表情を崩した。

楽しそうな顔で尋ねてきた。

「殿、それは何ですか」

「痒い所ならどこでにも手が届く、そういう意味だが、違ったか」

「初耳ですな。

まあ、いいでしょう。

それで如何しますか」


 それほど悩む問題ではない。

使者を送って来た家の大半は武田寄り。

いつ裏切っても不思議ではない。

そんな家を取り込もうとして色好い返事をするのは愚の骨頂。

私はまず加賀の件を口にした。

「加賀の一向一揆は私の名で成仏させよ。

老若男女は問わない、等しく彼岸へ送ってやれ。

それが慈悲と言うものだ」

 大人衆が顔色を変えた。

代表して筆頭・伊東が言う。

「殿、貴方様の名を汚したくはありません。

どうかお考え直しを・・・」私をジッと見た。

「簾の奥に引っ込んでおれ、そう言うのか。

それは出来ん。

この決定で現場の者達が手を汚す。

手だけではない、心も汚す。

その償いとして私は名を汚したい。

現場の者達と共にありたい。

済まぬが、そうさせてくれ」私は皆に頭を下げた。


 皆は顔を見合わせて首を竦めた。

反論はない。

了承されたと考え、私は続けた。

「飛騨や東濃の遠山一族は無視しろ。

当家とは無縁の者達だ。

・・・。

当家は東濃城を拠点にして防御に徹する。

武田を引き込み、誰が武田に味方するのか見極める。

その後に武田を叩く」

 参謀・芹沢が目を輝かせた。

「武田が相手ですか、腕が鳴りますな」


 当家の各番隊は今年も新兵が配属された。

それぞれ六千人に増強された。

一番隊は美濃勤番。

二番隊は越前勤番。

三番隊は加賀勤番。

四番隊は若狭勤番。

旗本隊は近江勤番。


 勤番でないのは五番隊、六番隊、

そして鉄砲隊のみで構成された十番隊。

まず五番隊は加賀へ向かわせた。

一向一揆掃討の汚い作戦に従事させた。

 十番隊は美濃が拠点なので自然、半数が甲斐武田に備え、

東濃城に詰めていた。

武田が攻めて来たら籠城し、味方の来援を待つ構え。

残り半数は尾張織田家への加勢として出向中。

織田信長の意向で居城・清洲の近郊に駐屯していた。

信長が全軍を率いて出撃したら、清洲の留守を預かるそうだ。

 完全に手空きなのは六番隊のみ。

私は決断した。

「私が旗本隊を率いて行く。

その間の近江勤番は六番隊に任せる。

いいな」皆を見回した。


 伊東が私に問う。

「殿が決められたからには異存は御座いません。

ただ、どう動かれるのか、その方針をお聞かせ願いたい」

「美濃へ向かい、武田の動きを見定めて、それに対処したい」

「武田の本体が飛騨に向かった場合、どうされますか」

「敵味方が確としないので介入はしない。

後尾の武田のみを討つ」

「武田が東濃の遠山一族の領地に入った場合は」

「こちらも介入はしない。

東濃城を拠点にして、出過ぎた武田の頭のみを討つ」


     ☆

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― 新着の感想 ―
[一言] しばらく他家の動向の話が続いていて、序盤の頃の勢いが弱まっているようで残念に思っていました。 久々に主人公が登場しましたので、次回から武田・今川戦で再び勢いを盛り返してほしいですね。
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