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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
93/248

(交錯)13

     ☆


 長尾景虎は越中を代官・宇佐美定満に任せて居城に帰還した。

すると城も城下町も戦勝と領土獲得で興奮状態であった。

これまでは敵に勝っても寸土も得なかったのが、今回は丸ごと奪った。

それも最小の被害で。

景虎の様変わりを訝る者より、素直に喜ぶ者の方が多かった。

そんな者達を見て景虎は苦笑いするが、多くは語らない。

 勿論、論功行賞は忘れない。

居館の大広間に家臣一同を集めて従軍した者達を褒め、

士卒の端々まで然るべき物を与えた。

感状から、領地加増や褒賞金だけでなく、名刀や陶磁器の類まで、

豊かな越後の国だけに与える物には事欠かない。


 一通り済むと女中達が酒と肴を運んで来た。

景虎は皆に言い渡した。

「今日は潰れるまで飲んでも構わん。

次の戦も近い、この機会に飲み溜めをしておけ」

 一斉に声が上がった。

「えいえい、おー」

 景虎は苦笑いした。

「お前ら、それでは鬨の声ではないか、どこを攻めるつもりだ」

 近くにいた柿崎景家が応じた。

「大吟醸でござる」


 人一倍飲んでいる景虎の傍に柿崎景家が膝を進めた。

小声で問う。

「お館様、聞き忘れておりましたが、明智家との交渉は如何なりました」

 景虎は全く酔っていない。

大虎にはなりそうにない。

「一つ目。

国境は旧来のままと言う事で合意した。

二つ目。

一向一揆は、互いに力を合わせ、磨り潰すことで、これまた合意した。

三つ目。

話し合いは順調だ。

詳細を双方の取次役方で詰めている、それで良いな」

「それを聞いて安心しました。

これで遠慮なく武田や北条を叩けますな」

 景虎は柿崎を見て、笑みを浮かべ、深く頷いた。

それで柿崎は喜んだ。

「それは楽しみですな、腕が鳴ります」


 そこへ甘粕景持が割り込んで来た。

少し酔いが回っていた。

「内緒話ですかな」

 柿崎景家は甘粕の肩に手を置いた。

「お主の噂をしていたのよ」

「ほう、どのような」

「いい男だとな」

「ぬかせ、煽て上げても何も出さんぞ」

 甘粕は柿崎の手を外し、景虎に尋ねた。

「ところでお館様、今川が上洛すると聞きました。

もう兵は出したのですかな」

 景虎は丼の酒を飲み干した。

「はっきりとは知らぬが、そろそろかな」

「今川殿は街道一の弓取り、織田で止められますかな」

「兵力差からすると、織田では難しい」

「だとすると何らかの手立てが必要ですな」


 越後は景虎の次の関東出兵で沸いていた。

士卒も民も、誰もが勝利を信じて疑わない。

そんな中でも景虎は冷静に兵糧を買い集め、足軽を銭雇いした。

装備もふんだんにある。

万全の態勢で出兵できると、ほくそ笑んだ。

 表が活発なだけではない。

裏方の越後忍びも忙しい。

侵攻路を下調べする傍ら、侵攻路沿いの有力者の内情も探った。

北条に臣従していても、場合によっては勝ち馬に乗る傾向があるのだ。

自家の存続の為には泥水を啜るのも厭わない関東武士。

それを露骨に体現する者が多いだけに、完全な信用は置けない。


     ☆

     ☆


 北条氏康は兵を率いて上野に向かっていた。

上野の去就定まらぬ者達を誅する為だ。

が、それは表向きの理由。

実際は今川家の要請で長尾景虎の牽制を行う。

 武田が明智家牽制の為、場合によっては美濃奥深くへ侵攻するので、

その間、景虎を引き摺りまわして欲しい、と願ってもない要請だった。

しかもその期間の兵糧もくれると言う。

それが先払いで送られて来た。

断れる訳がない。

 兵糧に不安がないので嫡男・氏政を上総へ向かわせた。

里見家を追い払い、ついでに上総をも掌中の物とせよと命じた。

二つも獲れるとは思わないが、余裕で一つは獲れる、そう計算していた。

今川が尾張を獲り、武田が美濃を獲る。

そして北条は上総を獲る。

三方よし。

氏康は期待に胸を膨らませながら厩橋城に向かった。

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