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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
91/248

(交錯)11

     ☆


 武田信玄は北信濃への侵攻の途次にあった。

野営を嫌い、社寺に泊まった。

その夜、庭先に気配を感じた。

刺客ではない。

身辺には常に側仕えと甲州忍びが配されているので、その懸念はない。

彼等が通したと言うことは、それ相応の者で、

緊急の知らせを持って来た者、且つ、表から入れない者。

一人しか顔が思い浮かばない。

扱い難い奴だが、得難い奴。

「入るがよい」

「かしこまりました」

 やはり飛加藤の声だ。

音も立てずに廊下に上がり、部屋にすいと入って来た。

敷居の近くに平伏した。

「お久しぶりでございます」

「おう、久しいな。

もっと近くへ寄れ。

大声で話す内容ではないのだろう」

 飛加藤はススッと膝を進めるが、一定以上は前には出ない。

斬撃を警戒していると分かった。

思わず信玄は漏らした。

「相も変わらず用心深いな」

 飛加藤は無表情。

「生まれつきの小心者でして」


 飛加藤。

どこの忍びかは判然としないが、名は広く知られていた。

一般にではない。

忍び仲間や金持ちの大名武将等にだ。

彼等にとって有益な情報を売り歩くからだ。

その情報の正確さは、とても一人働きで得られる物ではない。

多くの配下を抱えていると見ても差し支えないだろう。

信玄は尋ねた。

「北信の情報か」

「いいえ、それはもうお持ちでしょう。

信玄公が手ぶらで出兵されるとは、とても思えません」

 信玄は嬉しそうに言う。

「そうは言うがな、ワシとて万全ではない。

万全を期しておるが、いつもいつも、どこかしらに穴がある」

「我等は神に非ずして、ただの人ですから、それも無理からぬことかと」


 信玄は戯言を楽しみつつ、本題に入った。

「お主も暇ではなかろう。

今宵の売り物はなんじゃ」

 飛加藤はチラリと奥の襖を見た。

それに信玄が応じた。

「他の者達もお主をある程度信用している、が、深くは信用していない。

そう言うことだ、いない者と思ってくれ」

 飛加藤はコクリと頷いた。

「越後、越中、長尾、椎名、神保」

 信玄にとっては面白い話ではない。

「越後の景虎が越中に攻め込んだ話か。

神保を追い詰めたものの、能登の畠山が仲介に入ったのだろう」

「その先は・・・」

「まだ入って来ない」

「この先も入ってこないでしょうな」

 信玄は奴の言葉を反芻した。

色々な意味に取れる。

飛加藤は無表情を貫いた。

「某は何もしていない。

長尾景虎が先の上洛で甲賀より新規の忍びを大漁に雇い入れ、

軒猿を増やした。

その軒猿が越中と北信の国境を固めている。

甲州忍びはその網に引っ掛かったようだな」

 軒猿。

長尾景虎配下の越後忍びの一つ。

 

 長尾景虎の上洛は耳にしていた。

それが甲賀とは・・・。

明智家との抗争で甲賀を領内に持つ六角家の力が落ちた。

その影響が甲賀にも現れたのだろう。

でなければ大量の雇用は有り得ない。

その増えた軒猿が振り向けられるは、誰が考えても信玄しかいない。

「買おう」

 飛加藤の表情が崩れた。

「お買い上げ有難う御座います。

それでお支払いは・・・」商人の顔になった。

「戦だ、余分な砂金はない。

そこでだ、京の三ツ橋屋は知っておるよな」

「ええ、存じております」

「一筆書く、それで良いか」

「勿論ですとも」

「では聞かせて貰おうか」

 

 飛加藤は姿勢を正して越中の一連を騒ぎを詳細に語った。

聞かされる信玄はウムウムと唸りつ、時折質問し、

納得すると説明を続行させた。

お陰で長い時間がかけられた。

 飛加藤の説明が終えても信玄は口を開かない。

腕組みして沈思黙考。


「長尾景虎に何かあったのか」

「何かとは・・・」

「以前とは違う動きだ。

上洛する前は戦場では果断であったが、政は至って凡人、

出奔するほどに無能だったとも言える。

それを周りが支えていたから、なんとか成っていた。

しかし、此度の越中の仕置きを見ると、政にも果断になった。

なにがあった、お主はどう思う」

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