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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
88/248

(交錯)8

 丘の上にて信長を守っているのは馬廻りと森可成の手勢。

最初の敵の奇襲を受けて数を減らしてはいるが、

それでも士気は極めて高い。

何時でも出撃出来るように編成し直し、今か今かと出番を窺っていた。

 丘の下の田畑には信長軍が防御態勢を整え、布陣していた。

正面の鉄砲隊五百の筒先が順次、火を噴く。

それを敵は横合いから攻めようとするが、

徒士の者達が槍の穂先を並べ、鉄砲隊の左右側面を守っているので、

攻めあぐねていた。


 丘の下に布陣し、攻勢一方だった敵が乱れた。

敵陣の後方に新たな軍勢が出現したからだ。

旗指物は信長軍。

農道から次々に駆け下り、敵陣に攻めかかって行く。

 信長が采配を揮うより早く森勢は出撃した。

丘を駆け下り、味方鉄砲隊を割るようにして抜け出、敵陣に斬り込む。

野に放たれた獣。

奇襲で斃れた味方の仇と言わんばかりの勢い。

これに徒士の者達も続いた。

一際大きな声が響いた。

「総員、ちゃっけ~ん」

 鉄砲隊か一斉に銃剣を取り付けた。

「これより敵を殲滅する。

隊伍を組み次第、各個前進せよ」

 五人一組になり、前進を開始した。


 信長が心底からの喜び。

「これで尾張の統一は成った」

 その言葉を補強するように近習が使番を連れて来た。

「城攻めからの使番です」

 使番が信長の前で跪く。

「犬山城を占領いたしました」

「味方の被害は・・・」

「城兵が少なく、味方の被害はごく僅かです」

「犬山殿は・・・」

 信長の姉は城の名から犬山殿と呼ばれていた。

「ご息女と共にご無事です」

 信長はホッとした顔で妹二人を見遣った。


 夕刻を過ぎた。

少しずつ暗くなって行く。

星も一つ、二つ、三つ。

長い雑木林を抜けると前方が明るくなった。

夕焼けではない。

前方に人による灯りが見えた。

あれは稲葉山城・・・。

稲葉山城が煌々としているだけでなく、その城下も似たようなもの。

近付くにつれて、盛大に篝火を焚いているのが見て取れた。

 兵だけでなく町民達も列をなし、私達を歓声で迎えた。

貴賤の区別なく皆が歓迎していた。

特に輿の登場時には最高潮になった。

周りにいた兵士達が制止せねば、群衆が押し寄せたかも知れない。


 次の日からは美濃の者達の挨拶を受けた。

まず初日は直臣である足軽達から。

大人衆、諸役・番役方の長、山窩衆、河原衆、下役の頭衆。

随分と増えたものだ。

それもこれも世が乱れてるからだ。

 二日目は領地を献上して銭雇いとなった元国人や元地侍の与力衆。

こちらも増えた。

自分達の領地からの上がりより、

銭雇いの方が実入りが良いと気付いたらしい。

ますます増える傾向にあるとは大人衆の弁。

結構な事だ。

直轄の領地が広がれば開発もし易い。

 三日目は領地持ちながら臣従している国人衆や地侍衆。

これもまだまだ数が多い。

しかも何故だか意気軒昂。

その根拠が分からないから困ったものだ。

しかし私には有力な味方がいた。

最大の国人である斎藤家だ。

嫡男の後見人である近江の方が祝ってくれた。


 四日目になると私達も疲れてきた。

お市には顕著に現れた。

「私つかれちゃっやーた。

休んじゃ駄目かにゃー」

 お絹が頭を抱き寄せた。

「これが正室の初仕事。

みゃあちいと二人で頑張ろう」

 三人並んで言祝ぎを聞いた。

本日の来客は直轄地の町長や村長、寺社の者達。座の者達。

年寄り率が高いだけに挨拶も長い、くどい。

それでも我慢、我慢。


 そしてある事に気付いた。

東濃の有力者である遠山家からの挨拶がない。

遠山家は臣従はしていないが、敵対もしていない。

どちらかと言えば分家を通じて甲斐武田に近い。

それだけに要注意だ。

 もう一つ、隣国の飛騨からも誰も来ていない。

こちらにも武田の手が伸びている。

武田は信濃で足止めを喰らっているが、そこを突破したら次は・・・。

幸い東濃城が堅固であるから侵攻は防げるが、

それだけでは万全ではないだろう。

何か手を打たねばならない。

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