(交錯)5
森可成勢五百が先導した。
それに明智家旗本隊四千が続いた。
一組五百で計八組、整然と行進して行く。
最後尾は信長の本隊千。
明智家の最後尾・第八組に私と信長が馬で並んだ。
これに二つの輿が付き従う。
お絹とお市だ。
信長は意外と気配りの人だった。
私に色々と問いかけてきた。
「城の門番の詰め所に、斬り捨て御免の免許状とあるそうだな」
「話が通じぬ来客の処遇は門番に任せているのです。
門番も大人ですから、それなりの対応が出来るのですが、
どうしようもない者もたまに現れて手を焼かされるのです。
その時の為の斬り捨て御免の免許状です」
「本当に門番の一存で斬り捨てるのか」
「詰め所の者達が合議の上で斬り捨てます。
斬り捨てたら書類にして上に提出する。
それで一件終わりです」
「公家も斬り捨てたと聞いたが」
「はい、幾人かスパッと。
・・・。
公家は偉い貴し、そう世間や当人が思い込んでいるだけです。
何を持ってして偉い貴しと言うのか・・・。
我々と違って官職や位階なるお飾りを持っている事ですかね。
・・・。
もっとも、お飾りがなければ、ただの人、ただの無礼な奴」
信長は目を丸くした。
「他人には聞かせられぬ話だな」
信長は私と話しながら、妹二人にも話を振る。
「お絹、乗っていて腰は疲れぬか」
「ちいと疲れましたけど、我慢だがや」
「お市、お前はどうだ」
「私は若いから大丈夫だがや」
お絹がお市に言う。
「お市、みゃあ一緒に寝てあげねぇよ」
「聞いてちょ」
「あかんがね」
二人してケラケラ笑い合う。
信長が私に右手に見える城を指し示した。
「あれが犬山城だ。
あそこの城主に姉が嫁いでいる」
予定より早く国境に着いた。
その国境の川を越えた地点に出迎えの者達がいた。
十番隊の隊長・原田佐太郎と参謀・片岡源太郎、そして手勢百。
原田が進み出た。
「お待ちしておりました」
その原田が鼻高々な顔で川を指し示した。
橋が架けられていた。
私は驚いて尋ねた。
「何時の間に架けたんだ」
「一昨日に取り掛かり、今朝完成しました」
「早いな、突貫工事か。
・・・。
よく見ると、あれは沈下橋だな、誰が考えた」
沈下橋は洪水対策として堤防より下に設けられる。
そして欄干がない。
「職工の村の者達です」
「よく考えついた、偉い、金一封だな。
それで強度についてはどう言ってる」
「一年持てばと」
突貫工事の木造橋、一年も持てば十分だ。
この経験を次に活かせばお釣りが来る。
信長や森も興味津々で前に進み出て来た。
「ワシが渡る」
「それでは某もご一緒します」
私は置いてきぼりで話が纏まった。
信長と森が騎乗したまま、橋を渡った。
短いので直ぐに戻って来た。
満足せぬのか、再び渡った。
帰りは馬を走らせた。
上機嫌で信長が原田に尋ねた。
「どうやった。
犬山城の者達に見つかったら騒ぎになる筈だが・・・」
「職工の村で一度、完成させております。
・・・。
職工の村で全ての木工作業を行い、一度組み立てて強度を確認し、
それをバラシてここへ荷馬車で運んで来ました。
ここでは最終組み立てだけですから大きな音は出ません。
騒ぎにもなりません。
最後まで犬山城の方々には見つかっておりません」
「なるほど、組み立てただけか。
よく考えたな、当家でも真似るか」
「いいですな。
これなら冬でも渡河が楽になります」