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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
80/248

(波紋)5

     ☆


 越前の守護・朝倉義景は大広間に重臣達を集めた。

上座から眺め渡すと、そこから幾つもの古い顔が消えていた。

朝倉景隆、朝倉景鏡、朝倉景紀、何れも一族の重鎮。

彼等に従っていた国人衆や地侍衆もいない。

敦賀の地をも失った。

公方様に加勢を出したのが悔やまれた。

だが、今更だ。

 周囲を険しい山地に囲まれているから、

防御に徹すれば敵を撃退できる。

でもそれは一時的なもの。

入れないと言うことは、出れもしない。

何とかして窮地を脱せねばならない。

義景は山崎吉家に質問した。

「加賀の一向一揆は何と申している」

「加勢するので敦賀の地の半分を寄越せと・・・」

「受けたのか」

「お館の裁可が必要だからと、戻って参りました」


 山崎吉家を加賀に赴かせ、一向一揆衆と交渉させた。

明智家が今現在の明確な敵なら、一向一揆は先祖代々の敵。

その宿敵とも言える存在に加勢を求めた。

背に腹は代えられなかった。

 これに誰もが異を唱えた。

大勢の地縁血縁の者を一向一揆との戦闘で失っていたからだ。

感情を剥き出しにして、激しく反対する者もいた。

ところが誰一人、代案を出さない。

これには義景も業を煮やした。

「今直ぐ明智家によって滅びる瀬戸際だ。

対して一向一揆はこれまでも何とか凌いで来た。

強さが違う。

一向一揆はこれから先も凌げる。

各々、よく考えてみよ」


 誰もが押し黙った。

義景は時間をかけて重臣達を説くつもりなので、結論は急かせない。

ここが守護とは言え、難しいところ。

彼等は重臣であり、国人でもあるのだ。

それぞれが小さいながら城持ち。

無下には扱えない。

「それぞれ申したい事もあろう。

けっして笑わん、怒らん、腹の内を聞かせてくれ。


 山崎吉家が真っ先に口を開いた。

「お館様、明智家に下られては如何ですか」

 これには義景も驚いた。

まさか山崎吉家の口から聞くとは思わなかった。

「それも含めて考えてみよう」

 それを切っ掛けに意見が噴出して来た。

他愛もないものが多いが、何もないよりはまし。

全て聞くことにした。


 朝倉義景は一乗谷を出た。

現状で動かせる最大兵力の一万を率い、足羽川に沿って布陣した。

川を渡って来る敵を迎撃する態勢をとらせた。

 対岸に明智軍が現れた。

物見によると四千。

数はこちらが勝っているが、向こうは戦慣れした足軽部隊。

おまけに鉄砲隊もいる。

対してこちらは徴用した者が大半。

勝ち目はない。

不利に陥った瞬間に敗走するだろう。


 明智軍は長期戦を想定しているのか、陣の構築を開始した。

噂通りの手早さ。

空堀、木柵を難無く構築して行く。

見ていると整然と働いていた。

普請も戦の一つとして看做しているのかも知れない。

 炊事の煙が上がった。

こちらを尻目に悠々と食事を始めた。

こいつら緊張感を知らぬのだろうか。

朝倉義景は呆れた。


 翌朝、大きな喊声が上がった。

加賀の一向一揆衆だ。

予想を越えた五万。

二日前に到着し、うちの一万が明智家に察知されぬように散開し、

潜んでいた。

それが一斉に朝駆け、明智軍を三方より襲う。

これを合図に残りの四万も参戦して来る。

 事前に知らされていたので、義景は朝早くより起きていた。

陣頭に立ち、それを見た。

明智軍に混乱は起きない。

慌てる声も、怒鳴り声もない。

明智軍から一斉に鉄砲が放たれた。

釣瓶撃ち、全く止まない。

 よく耳を澄ますと遠方からも銃声が聞こえて来た。

これも明智軍だ。

一向一揆が散開して潜んでいたように、明智軍の別部隊も潜んでいた。

それが伏兵として迎撃した。


 山崎吉家が側に来た。

「山々から明智家の山窩衆が下って参りました」

 峰々で狼煙が上がり、完全武装の明智家山窩衆が下って来た。

見慣れた美濃の国人衆の旗指物も混じっていた。

どのくらいの兵力が美濃から山を越えて越前に入ったのだろう。

考えたら鳥肌が立った。

「遅れてはならぬ」

「参りますか」

 義景は軍配を揮った。

「一向一揆を討て」

 鬨の声が上がった。

朝倉家の宿敵に向かって軍勢が駆け出した。

怨念が籠った気合があちこちから聞こえて来た。

これは普通では終わらぬ。

このまま押して加賀に討ち込むのは必至。


 朝倉家は加賀の一向一揆を手土産に、明智家に臣従した。


     ☆

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― 新着の感想 ―
[一言] 騙して悪いが武者なんでな。犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候。 とか言いそうな展開……いやほんと騙された!
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