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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
78/248

(波紋)3

     ☆ 


 出雲の国、月山富田城。

城主・尼子晴久の執務室に薄汚れた旅装の男が入った。

「ただいま戻りました」

 尼子家の忍びの集団・鉢屋衆を率いる飯母呂十兵衛が膝をつき、

軽く両手をついた。

急ぎの仕事であったにも関わらず、疲れた様子は見られない。

晴久は満足そうに頷いた。

「すまぬな、早く聞きたくて呼び出した」

 先触れから帰着の報告を聞くや、翌日まで待てなかった。

「構いませぬ」

「それで都の様子は如何だ」

「酷いものです。

この混乱は暫く続くと思われます」

「誰が主導している」

「伊勢貞孝殿と細川晴元殿です。

伊勢殿が覚慶様を担ぎ、細川様が阿波公方様を担いでおられます」

 覚慶を担ぐのは政所執事・伊勢貞孝。

阿波公方を担ぐのは管領・細川晴元。

共に武力は乏しいが、無駄に権威権力血縁地縁だけはある。

「本当に三好は口出しせぬのか」

「はい。

長慶殿は摂津に籠ったままで、幕臣との面会を一切断っております」

「頑固者か、粗忽者か、判断付きかねるな。

もう一人の御舎弟様はどうだ」

「周嵩様ですね。

この方は行方が分かりませぬ。

寺から忽然と姿を消したようで、皆は神隠しと噂しております」

 晴久は視線を宙を浮かした。

「神隠しか・・・。

お主はどう思う」

「誰かが上手く手引きしたのでしょう」


 飯母呂十兵衛からの詳細な報告書が翌夕に届けられた。

書いた当人は書き上げるや、死んだように寝入ったそうだ。

それを聞いて晴久は苦笑い。

「十兵衛には苦労かけたな。

ゆっくり休ませるが良い」

 十兵衛の配下の者を下がらせ、晴久は報告書を開いた。

概要は昨日聞いたが、それはそれ、これはこれ。

改めて書面に目を走らせ、関係する者達の相関図を脳裏に刻んだ。

が、複雑に入り組んでいて、解き難い。

親子で双方に別れている家もあれば、

この家がこちら側に付くのかと言った疑問も・・・。

長年積み重なった幕政の膿が、ここに噴出していた。


 鉢屋衆の詰め屋敷は城の外郭にあった。

その一角で十兵衛は寝ていたが、それを破られた。

一族の古老がそっと部屋に入って来たのだ。

空気でそれと分かったので、寝入ったまま尋ねた。

「眠らせてくれ」

「それは、ずっとと言う意味か」

 笑えない。

「起きるまで眠らせてくれ。

疲れた、とても疲れた、それじぁ眠るぞ」

 古老が小声で言う。

「頭の仕事は大概疲れるもんだ。

それを承知で頭に就いたんだろうが」

「反論できん、しかし、眠い」

 古老は無視して、さらに声を潜めた。

「城の賄い方に妙な奴が雇われて入ってきたぞ」

 十兵衛の身体がビクッと動いた。

古老は嬉しそうに続けた。 

「おかしいので、古手の奴等に其奴を尾行させた。

そうしたらだ、其奴は、これまた妙な奴等と連絡を取り合っておった。

誰だと思う、なあ、誰だと思う」


 十兵衛は横になったまま、身体を向けた。

それでも眠そうな顔は変わらない。

「世鬼か」

 世鬼衆、毛利家の忍び集団だ。

「当たりじゃ。

連中は人が少ないようでな、

新宮党の件に関わった者を繋ぎで差し向けて来おったんじゃ」

「座頭衆は・・・」

 毛利家のもう一つの忍び集団、座頭衆。

世鬼衆と座頭衆が尼子の新宮党を罠に嵌め、

晴久に粛清されるように仕向けたと忍びの世界では噂されていた。

しかし、十兵衛も古老を真相は知っていた。

晴久は普段から新宮党を邪魔に思っていた。

そこでこれ幸い、毛利の策に嵌った振りをして粛清した。

結果、尼子を一枚岩にした。

「顔はなかったそうじゃ」

「今回は世鬼だけか」

「そうじゃ。

賄い方だ、何をすると思う」

「毒殺か」

「狙いは晴久様だろうな」

「任せていいか」

「喜んで。

それではお頭様、ゆっくりお休み下され」


     ☆

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