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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
77/248

(波紋)2

     ☆


 甲斐の国、躑躅ヶ崎館。

武田晴信は出家した。

閻魔帳を憚って名を信玄としたが、業は深かった。

権力の座に就いたまま、大広間に主立った家臣を集めた。

「一同の者、都の騒ぎは耳にしているだろう。

色々言われていて、どれが真か分からぬと思う。

そこで、この者を都より呼び寄せた」

 小姓に案内されて一人の商人が入って来た。

下座に腰を下ろし、両手をついて深々と頭を下げた。

その者に信玄が声をかけた。

「都にて甲斐の為に働いておる。

三ツ橋屋の徳兵衛と申す。

のう、徳兵衛、儲かっておるか」


 徳兵衛は顔を上げない。

下の者らしく、伏せたままで応じた。

「いいえ、ほどほどです」落ち着いた声。

「そうか、儲かっておっても正直には言えぬわな。

それはワシが悪かった」

「いいえ、いいえ、お館様には儲けさせて頂いております」

「ワシから儲けるのは構わん。

相応の働きはして貰っておるからな。

ところで、他に取引しているのは誰だ」

「奉公衆の方々や、管領様の御家来衆です」

「そうか、商売繁盛でなによりだ。

伊勢家とはどうだ」

「渋いですな」

「三好家は・・・」

「このところ散財なさってますが、お家が傾く事はないでしょう」

「公家衆は如何だ」

「切りたいのですが、お館様の申し付けですので、

細々と銭で繋いでおります」


 前振りは終えた。

信玄は真剣な顔になった。

「皆に順序立てて説明してくれ」

「どの辺りからにいたしますか」

「長くなるかも知れんが、明智家との確執からだ。

その姿勢では苦しいだろうから、面を上げても良い。

ワシに気楽に喋っていたようにな」

「承知いたしました」


 商人が顔を上げて皆を見回した。

大広間にいる大半の者達よりも鋭い目。

鷹が獲物を求める目色をしていた。

でも、それは一瞬。

直ぐに変化させた。

真反対の穏やかな目色で語りかけた。

 喋りは商人そのものだが、そこに衒いや虚実はない。

耳にした話、目にした事実、それらを淡々と述べただけ。

自分なりの解釈も入れない。

判断は聞いた者に譲る語り口。

途中、信玄の指示で運ばれた温いお茶で何度か口を潤すが、

口調は最後まで緩まない。


 聞かされた方は堪らない。

甲斐に出回っている噂とは、だいぶ食い違いがある。

極悪非道の明智家・・・。

公明正大な公方様・・・。

そして先代の武田信虎の遣り口・・・。

互いを顔を見合わせ、小声で言葉を交わす。


 三ツ橋屋徳兵衛がお茶菓子に手を伸ばした。

それを見た信玄は笑みを浮かべた。

「どうだ、その菓子は」

 徳兵衛はお茶で流し込む。

「けっこうですな。

都から職人を呼び寄せられたのですか」

「ほう、分かるか。

その通りだ。

ぽっとでの明智家には負けてはおれん。

当家も職工を招くことにした」

「それは宜しいですな」


 信玄は表情を改めた。

「菓子はそれでいい。

・・・。

幕府はどうなると思う。

都人として話してくれ」

「痛いのは三好家の離反ですな。

大きな柱が欠けてしまいました。

埋めようにも近在に力のある大名がおりません。

こればかりは・・・」

「ほう、すると権力は管領家と伊勢家か」

「はい、次の問題は誰が後継者になるか、ですな」

「誰だと思う」

「常識的には義輝様のご舎弟様でしょう。

覚慶様か周嵩様。

まさかとは思いますが、阿波公方様の目も・・・。

そうなると、また騒ぎになりますな」

「武田家も源氏の血筋だ、どう思う」

「今の足利よりも相応しいと思います。

が、途上に明智家があります」


     ☆

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