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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
76/248

(波紋)1

     ☆


 遥か西の地。

九州日向の国、佐土原城。

城主・伊東義祐は都よりの手紙を受け取った。

親しくしている幕府奉公衆からの私信であった。

読むにつれ、表情が険しくなって行く。

見兼ねた側仕えの黒木主税が声をかけた。

「殿、如何なさいました」

 義祐は顔を上げない。

「・・・、公方様がお討ち死になされた」

 予期せぬ答えに黒木は言葉を失った。

義祐は読み終えた手紙を手渡した。

黒木はそれを読み、弱々しく言う。

「公方様を手にかける者がいるのですか」

「畏れ多い事だ。

・・・。

これで幕府からの差し出口がなくなる。

飫肥の島津豊州家を潰せ、そういう意味合いの便りだ」黒い笑み。


 黒木は便りを二度三度、読み込んだ。

「どこに、そんな・・・」

 義祐はジッと黒木を見た。

「よく覚えておけ、誰に読まれるか分からぬ手紙だ。

馬鹿正直に書く奴はいない。

この手紙のように行間に意味を込める。

それが作法と言うものだ」

 黒木は呆れたように主を見た。

「初めて知りました。

目から鱗ですな。

・・・。

それでは飫肥を攻めるのですか」

「ああ、幕府が混乱している。

今度こそは仲介には出て来ぬだろう。

ここで一気に叩いてやる。

・・・。

後顧の憂いをなくしたら、東征でもするか」

「伊東東征ですな」


 伊東義祐は大隅国の肝付兼続と同盟し、

飫肥城の東郷則次との間に内応の約を取り付けると挙兵した。

総勢一万。

日向国南部の飫肥城へ押し寄せた。


     ☆ 

     ☆


 遥か北の地。 

陸奥最北端にある浪岡御所。

浪岡北畠家当主・北畠具運は読み終えた手紙を投げ捨てた。

側仕えの甲田正幸が慌てて拾い上げ、折り畳む。

「お館様、如何なさいました」

 具運は甲田を見遣った。

「公方が討ち死にしたそうだ」

「なんと・・・、それは本当なのでしょうか」

「便りは都の商人からだ。

其奴には嘘をつく理由がない。

・・・。

まあ、その手紙を読んでみろ」

 甲田は折り畳んだ手紙を広げた。

読むにつれて顔色が悪くなった。

「酷い話ですな。

だとすると、これから先、どうなるのでしょうか」

「誰が後を継いでも足利家は下り坂だ。

もう上向くことはない」

「すると次は・・・」

「明智家と申す大名が公方を討ったそうだが、これは無理だろう。

公方殺しの悪名ではな・・・。

一番近いのは三好家だな。

公方の遺体を明智家から買い取って、立派な葬儀を行ったそうだ」

「買い取ったのですか」


 具運がさも面白そうに言う。

「明智家から売りに出ていたそうだ。

陶器や書画と一緒にな。

それを三好家が買い取った」

「それはそれは、言葉がありませんな」

「だが、面白い。

他人事だからな。

・・・。

三好家は幕政に精通している。

今、混乱なく治められるのは三好家しかない」

 甲田は不安気な顔をした。

「政所の伊勢家が幕政を牛耳っている筈ですが、そちらとは」

「三好家は公方の葬儀の後、一族揃って都から退去したそうだ」

「それは・・・」

「室町幕府とは縁を切ったのだろう」

「思い切りましたな」

「そうだ、なかなかやりおる。

それで当家も時流に乗らねば、遅れを取る。

主立った者達を集めて、考えを聞こうと思う」


 浪岡御所に家臣だけでなく、血縁や由縁の者達が集められた。

そこには大身の南部晴政や安東愛季も呼ばれていた。

南部家や安東家とは祖・北畠顕家以来の縁で結ばれていたので、

同席しても誰も違和感は抱かない。

 具運は都の状況を知らせた。

話すにつれ、聞く皆の表情が微妙なものになった。

話の行く先が掴めず、困っているのだろう。

具運は大勢を見回して、最後を締めくくった。

「方々、暫く幕府は動きがとれぬ。

どうでござろう、この間に力を合わせて南進しようではござらんか」

「南征するということか、なんと壮大な」

「北畠は南征の家です、お忘れですか」


     ☆

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