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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
72/248

(包囲網)15

 朝倉景隆は陣太鼓を打たせた。

途端、味方が崩れた。

公方様お討ち死にの報に接しても頑強に踏ん張っていた者達が、

真っ先に、我先に逃げ出した。

景隆は予想していたので慌てる事も、咎める事もない。

淡々と味方を逃がし、己が手勢で殿を務めた。

そこへ昔から親しくしている武将が加勢に来た。

朝倉景紀。

先代国主の四男で、朝倉宗滴家へ養子入りした堅物だ。

「手伝うぞ」

「無用、先に行け」

「遠慮するな」

 年が近いせいか、遠慮がない。

どこ吹く風とばかり、朝倉景紀が手勢を後方へ回した。

殿の二段構え。

正直、嬉しい。

朝倉宗滴が手ずから鍛えた手勢なのだ。

期待してしまう。

「死ぬなよ。

死なれたら朝倉宗滴様や先代様に叱られる」

「ほう、それは是非見てみたいもんだな」

「抜かせ、ワシはお断りだ」


 味方の退却を援護していると、背後から襲われた。

敵槍足軽の一隊に回り込まれていた。

それでも朝倉景隆は慌てない。

予期していた事態。

味方を鼓舞し、冷静に応戦した。

朝倉景紀も同様だ。

古強者の矜持を見せた。

 こうなれば自分の、頭の上の蠅を追う番。

応戦しながら、朝倉景紀勢と交互に退く。

この塩梅が難しい。

一つでも間違えると一瞬で突き崩される。

 側面に新たな敵影。

素早い動きで隊列を組んだ。

鉄砲隊だ。

入れ替わる様に敵足軽隊が退いた。

万事休す。


 射撃音が轟いた。

双方の家来達が次々に倒れ伏した。

逃れられぬと見たのか、朝倉景紀がこちらを見た。

刀を頭上に振り翳して不敵に笑う。

言いたい事は分かった。

真似て刀を頭上に振り翳した。

「それぞれ、散開して逃げろ」

 家来がばらけたのを確認するや、二人して敵鉄砲隊に斬り込んで行く。

「その刀は朝倉宗滴様からか」

「当然だろう、養子とは言え跡継ぎだからな。

そういうお主こそ立派な刀ではないか、それは」

「先代様からだ、不出来な四男を頼まれてしまったのでな」

「ふっ、遅れるなよ」

 銃撃が二人に集中した。

鎧甲冑に喰い込む銃弾に前進を阻まれた。

敵隊列まで届かない。


 朝倉景鏡の手勢は隘路を抜けて平地に出た。

後方から聞こえて来る銃撃音が止まない。

戦場から遠ざかっているのは理解しているし、追撃して来る敵もいない。

この先には、こちらの内応した国人衆の小城や砦があるだけ。

しかし、それでも安心はできない。

気奴等が公方様お討ち死にの報に接し、どう動くか分からない。

幸い、勝手に戦場から逃走した連中が先行していた。

何かあれば彼等の身体で知れるだろう。

 背中が反応した。

遅れて耳に馬蹄の轟きが聞こえた。

すわ、敵の追撃かと振り返った。

味方の騎馬隊、若狭武田家勢だ。

およそ五十数騎。

それだけなら安心できたが、旗印や馬印がない。

 先頭の騎馬武者の表情が事情を物語っていた。

当主を逃すために徒士の者達も含め、何もかも打ち捨て、

無様に逃げて来たらしい。

その直ぐ後方には別の騎馬集団。

腰の旗指物は明智家。

明智家ご自慢の一つ、騎馬足軽隊ではないか。

武田家当主の首を見逃すつもりはないらしい。


 明智家先頭の騎馬足軽の目がこちらを認めた。

即座に後方に手で何やら合図した。

騎馬足軽隊が二つに割れた。

一方は武田家のまま、もう片方がこちらに差し向けられた。

 朝倉景鏡は徒士の者達を見捨てるつもりはない。

直ちに周囲にいた足軽雑兵も呼び集め、円陣を組ませた。

盾がないので、馬が嫌がる刀の切っ先や槍の穂先を並べさせた。

 敵は相性の悪い弓騎馬隊ではないか。

優位性を活かし、遠間で馬足を止めると容赦なく射て来た。

真っ先に狙われたのは景鏡達が乗っていた馬。

遠慮会釈のない矢が馬体に次々に突き刺さった。

景鏡の馬も首と胴に受けた。

痛みの余り景鏡を振り落とし、周りの足軽雑兵を蹄にかけた。

家来の手を借りて身を起こした景鏡は全員に命じた。

「散開して越前を目指せ」

 一斉に全員が動いた。

それぞれが手前勝手に逃走した。

だが、景鏡は動かない。

腰の脇差を抜いた。

その場で自決を選んだ。


     ☆

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