(開演)7
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斎藤義龍は稲葉山城を出て長良川の南岸に布陣した。
鷺山城を発した敵軍が稲葉山城を目指すなら目前の浅瀬しかない。
敢えて敵に浅瀬を渡らせ、手元に呼び込み、押し包む。
そう想定して味方は浅瀬から離した。
中央に中濃勢。
左翼に西濃勢。
右翼に東濃勢。
合わせて一万五千。
想定通りに対岸に敵軍の陰。
河原には降りず、横広がりに布陣した。
前進する気配がない。
数組の物見を川の上流下流に走らせるだけ。
伏兵を警戒している様子。
本陣に物見が駆け戻って来た。
義龍の前に跪き、息せき切って報告した。
「大変でございます。
敵軍の本隊は長良川に沿って下っております」
「対岸の敵軍は」
「林勢、およそ二百。
我らの目を欺く為かと」
中央に広げられた地図を見ていた長井道利が顔を上げた。
「おそらく、この浅瀬に向かっているものかと」
長良川の下流の一ヵ所を指し示した。
ここからは、かなり離れていた。
時間を無駄にした。
「くっそう、こちらも直ちに陣を動かす。
日根野」
日根野弘就が地図から顔を上げた。
「はっ」
「先行して敵軍を捕捉せよ。
これからだと渡河を終えてるはずだ。
見つけても攻撃は控え、我等を待て」
「竹腰」
「はっ」竹腰道鎮が視線を合わせた。
「林勢が鬱陶しい。
追い散らし、対岸沿いに敵軍を追え。
ただし、手は出すな。
距離を置いて牽制するに留めよ。
決戦においては、その限りではない、一切を任せる」
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