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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
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(包囲網)9

 予定外の長尾景虎一行の従軍を受け入れ、私達は進発した。

先鋒は四番隊、四千名。

隊長は谷三太郎、

お手本のような部隊運用をする責任感の強い男。

融通が利かないのが玉に瑕、でも笑って許せる範囲だ。

 その後に旗本隊、四千名。

景虎一行も一緒だ。

 後尾は五番隊、四千名。

隊長は藤堂平太。

優れた洞察力を持つ男なので、安心して背中を預けられる。


 物見によると、公方と六角の軍勢がこちらに向かっていた。

そこで我が軍は右手には琵琶湖を望む平地に布陣した。

四番隊に迎撃態勢を取らせた。

対して五番隊は後方から来るであろう朝倉や武田に備えさせた。

そして挟みこまれる形で旗本隊が本陣を置いた。

 私は床几に腰を下ろして陣卓子に広げられた地図を見た。

隣に景虎が遠慮なく腰を下ろした。

「光国殿よ、ここだと湖族に襲われ易いぞ。

それを承知か」

 湖族。

琵琶湖の水運を担っている者達の呼称で、

延暦寺や本願寺、越前朝倉氏の影響下にある。

荷物を運ぶのを主としているが、荒事も銭次第で受ける。

当家とは、どちらかと言うと敵対に近い関係。

向こうから伝わって来る雰囲気から、そう考えていた。

私に代わって参謀の芹沢が答えた。

「承知でここにしました。

向こうとの関係が今一つ読み取れないので、

これを機にはっきりさせようと思います。

襲って来れば丁重に接待させて頂きます。

ですからご安心を」


     ☆

     ☆


 足利義輝は止まぬ銃撃に臍を噛んだ。

対峙してまだ三日目だが、付け入る隙が見出せない。

こうまで撃たれては味方の士気も下がると言うもの。

 それに、これまでの戦とは趣きが異なった。

相手方に駆け引きして来る武将がいないのだ。

部隊単位で行動し、一番槍とか、一騎駆けとか、それらが皆無。

常に隊列を維持し、ジワジワと押して来て、頃合いとみれば、

スルスルと波が引くように退いて行く。

こちらの第一陣を突破しようとする気概が感じ取れない。


 足利義輝は地図を睨んだ。

側の近習に尋ねた。

「後背を衝く朝倉勢と武田勢はどうしてる」

「本日中に布陣を終えるそうです」

「そうか、こちらの被害は」

「甚大です。

敵は鉄砲の運用もですが、弓騎兵や長槍の運用も巧みで、

各所で手酷い目に遭っております」

 そうなのだ。

弓と言えば六角家のお家芸だったが、ここでは過去の遺物。

敵弓騎兵の出現によって完敗した。

こちらが優勢になると駆けて来ては、射て潰して行く。

それを騎馬隊で追わせれば、伏兵の長槍隊に包囲され、

殲滅させられる始末。

悉く後手後手に回っていた。

「全部隊を下がらせよ。

手当てを優先させ、明日に備える」


 足利義輝は自然に目覚めた。

今日こそは、勝負をつける。

幕舎を出ると、そこは霧の白い世界が広がっていた。

見通しが悪い。

幸先が良い。 

 近臣が駆け寄って来た。

「朝餉にしますか」

「おう、今日は忙しくなる。

腹一杯詰めるぞ」

 琵琶湖を望む位置に腰を下ろした。

朝露で濡れるが、今朝の霧は吉兆。

邪険にはしない。

 湖上にも霧が広がっていた。

耳を澄ました。

人の声も船の音も聞こえない。

遠方から鳥の鳴き声。

 今頃は湖族が漕ぎだしている筈だ。

彼等にとっては琵琶湖は庭のようなもの。

闇夜でも自在に動き回るのだ。

この霧で怖気付くとは思えない。

近臣が朝餉を運んで来た。

「こちらで宜しいのですか」

「ここで明智家の慌てる声が聞きたい。

そう言えば、お主は湖族とは親しかったな。

聞くが、この霧だ、上陸地点を間違える事はないのか」

「多少の野分なら、銭の為に漕ぎ出す連中です。

一部の間違いもなく予定の地点に上陸するでしょう」

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