(包囲網)7
表門に向かうにしたがい、側仕え達が合流して来た。
土方敏三郎、沖田蒼次郎、長倉金八、斎藤一葉、山南敬太郎。
これに影武者が加わった。
堀部弥平と槍持ちの堀部弥吉の親子。
門内には出撃を待つ部隊が勢揃いしていた。
旗本隊、四番隊、五番隊の三部隊。
新春から各隊の兵力も増強された。
倍増の四千名。
計一万二千名。
良いのか悪いのか、畿内の相次ぐ争乱により、
屯田の村に入る流民が大幅に増えた。
お陰で兵卒だけでなく職工も増えた。
当家としては喜ばしいが、手放しでばかり喜んではいられない。
敵からの紐付きも入るからだ。
その中には暗殺者も存在する筈だ。
恨みを買っている自覚は充分にあるので、
ますます自分の身辺には注意を払わねばならない。
私は小谷城を預ける六番隊の隊長・鈴木幹之助に声をかけた。
「任せたぞ」
「お任せを」
慎重居士の鈴木らしい応答。
機転が利く参謀・大石蔵人を付けているから大過なく務めるだろう。
その大石の姿がない。
探すと、門外からこちらに小走りで向かって来ていた。
顔が険しい。
何かが発生したらしい。
「どうした」
大石が跪く。
「お客様です」
「この忙しい最中にか」
大石が声を潜めて答えた。
「はい、越後から虎千代様がお出でになりました」
私は慌てて下馬した。
側仕え達が私達の声が聞こえぬように人壁を作った。
私は大石に小声で尋ねた。
「越後の虎千代・・・。
景虎ではなくて虎千代となると、また家出か」
「はい、当人もそう仰っていました」
越後の守護代・長尾景虎は以前も家出した。
家中での家臣同士の相次ぐ紛争に嫌気がさし、
「隠居して出家する」と城を抜け出した。
高野山を目指したのだが、途中、
立ち寄った美濃で面白い村に遭遇した。
兵卒と職工を育てる屯田の村。
そうなると体験したくなる。
越後と縁のある商人の伝手で入村した。
その際に面倒を見たのが大石蔵人。
私も大石の紹介で彼とは何度も会った。
彼の方が十二才年上だが、年の差はそんなに感じなかった。
気さくで明るい人柄、そして探求心の塊。
兄貴としか思えなかった。
当時は、越後の虎千代と名乗っていた。
幼名だそうだ。
今回もそう名乗っていると言う。
また家出らしい。
本来なら今頃は上洛している筈だ。
五千の兵を率いていると聞いた。
その兵を用いて公方の戦の手伝いをするとの噂も。
他人事ながら、大丈夫なのか・・・。
私が対戦相手なんだけど・・・。
私は大石に尋ねた。
「五千の兵は」
「途中、抜け出されたそうです」
「まさか一人じゃないよな」
「近習が十数名ついてらっしゃいます」
「その、わずか十数名で敵中に来たのか」
「顔色からすると、敵中とは思ってらっしゃらないと思われます」
私は皆を引き連れて門外に出た。
装いが違う十数騎が見えた。
微妙な顔のうちの兵達に囲まれていた。
私が近付くと、兵達の壁が割れた。
虎千代一人が平然とした顔で歩いて来た。
軽く片手を上げた。
「光国殿、久しぶり」
私も急ぎ歩み寄り、軽く会釈した。
「お久しぶりです。
今日は虎千代ですか。
それとも長尾景虎殿ですか」
「初っ端から固いね」
「戦の真っ最中ですからね。
たぶん、私達は敵味方でしょう」