表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
60/248

(包囲網)3

 私は尋ねた。

「お市ちゃん、公方様はどんな方だった」

 お市ちゃんはお酒と水を間違えていた。

涙目で、咽ながら答えてくれた。

「あっとらんがねー」

 懐から手拭を取り出して、お市ちゃんに差し出した。

「大丈夫かい」

「ありがとにゃー」 

 見兼ねたのか、信長が言う。

「血が繋がってれば馬でも鹿でも、公方様になれるな」

 意味深な言い方。

私が苦笑いしていると信長が突っ込んで来た。

「公方様相手に喧嘩を売った訳だが、勝算は」

「こちらから売った覚えはないけど、まあ、買ってあげるよ」

「随分な自信だな」

「三好が加わってないから十分に戦える」


 公方が頭を下げて依頼すれば三好の参戦もあるだろうが、

現状では全く考えられない。

まず公方は頭を下げない。

それに、三好の参戦で勝ったとしたら、今以上に公方が拙くなる。

論功行賞で三好の領地が増え、結果として公方の首を締める。

 これまで入洛を果たした大内や尼子は領地が遠隔地であった為に、

結果いかんに関わらず地元に戻った。

ところが三好家は違う。

三好長慶は四国から摂津に移って来ていた。

今や隣国なのだ。

当家の存在以上に三好の存在は大きい。

考慮せねば足利家は立ち行かなくなる。


 信長が分かってるとばかりに言う。

「だったら尾張の手は必要ないな」

 私は言い切った。

「当然だろう。

公方様殺しには加担させないよ」

 信長の目が細くなった。

「やる気か」

「敵の大将だからね。

やられるのが怖けりゃ、後ろに隠れてればいい。

・・・。

でも、あれは出て来そうだな。

鉄砲足軽がきちんと当ててくれれば良いが」

「分かる、あれは飛び出そうとする筈だ」

「まさか真正面には出てこないと思うが、

たまたま、流れ弾が当たったとか・・・」

「一万発も撃てば当たるだろう。

・・・。

何万発用意してんだ」

「公方様が相手だから、盛大に持て成すつもりでいるけど」


 お市ちゃんが不意に言った。

「あかんでかんわ」

 私は心配した。

「どうしたの、何か心配かい」

「絵本の話をするのを忘れとったにゃー」

「【かぐや姫】のことかい」

 お市ちゃんが監修までした絵本だ。

嬉しそうに手をポンと打った。

「そうそう、そうがね。

すっかり忘れとった。

あれは仕上がったの」

「帰りに美濃の工房を覗いてみたら」

「ええの、あそこは関係者以外は立ち入り禁止だがね」

「お市ちゃんは関係者だから入れるよ。

帰りに案内人も付ける」

「ありがとう、光く~ん」


「光く~ん、俺も鉄砲の弾一万発ほっしいかな」

 信長が酒を舐めるようにして言う。

「えっ、その身体に一万発ですか、死にますよ」

 信長が噴き出した。

「あほっ、この身体には一発で十分だ。

・・・。

しかしよう、お前は何を目指してるんだ。

天下か、公方を討って名乗りを上げるのか。

藤原、平家、源氏、北条、足利、そして明智」

「そんなつもりで稲葉山城を取ったつもりはないんだ」

「それじゃ、どういうつもりだ」

「何れ別家を立てるつもりでいたんだ。

別家で薬を作ったり、酒を作ったりしたいと思ってたんだ。

周りには銭雇いの腕の良い大人が集まっていたから、

これで楽に銭が稼げる、そう思ってたんだ。

・・・。

気が付いたら稲葉山城を取ってた。

そうしたら六角が攻めて来た。

その流れで小谷城まで取ってしまった。

今度は公方様が攻めて来る。

・・・。

次は観音寺城かな、それとも京かな」


     ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ