(近江)11
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私は小谷城下町での観閲式を終え、ホッとした。
口では簡単に言ったが、ああまで大がかりになるとは思わなかった。
一言で表すならば大成功。
皆が頑張ってくれたお陰だ。
関係者にも金一封を奮発した。
それにしても最後の実弾斉射は圧巻だった。
観閲式の締めに、一組百丁の鉄砲隊が十組み登場した。
十段撃ちを披露した。
途切れることのない銃声、漂う硝煙。
結局、十段撃ちを五回繰り返し、都合、五千発放った。
凄いとか言いようがなかった。
甘かった。
観閲式の反響が、と言うか影響が凄かった。
各所に影響が及んだ。
一番は美濃や近江の国人衆や地侍衆だろう。
ほとんどが誼を通じて来た。
中には臣従の申し入れもあった。
これまで恭順した家は十数家あったが、臣従は初めて。
待ってましたとばかり、大人衆がテキパキ交渉した。
手間取ったのは双方の条件の擦り合わせ。
臣従すると言いながらも粘る奴がいるのだ。
そういう奴は白紙にして、丁寧に追い返した。
大人衆筆頭・伊東康介が書類を持って来た、
「殿、これを」
「それは臣従した家の書類か」
臣従には二種類あった。
一つは領地を明智家に献上した上での臣従。
一つは領地安堵の上で、明智家への臣従。
明智家へ領地を献上した家は収入が途絶えるので、
その分は家禄として銭を支給する。
銭勘定から言えば、領地を持っていた頃より収入は確実に増える。
さらに番役方への与力としたので、与力手当ても上乗せされる。
家族のみならず手勢も余裕で養える。
良いことずくめ。
対して領地安堵の家は明智家へ臣従するのみで、
他は何も変わらない。
伊東が嬉しそうに言う。
「臣従すると言いながら往生際が悪い奴が多いですな」
「そんな奴等を虐めるのが好きなんだろう」
「人聞きの悪い。
親切に現実ってもんを教えてやるんですよ」
「それでどうやる」
満面の笑顔で説明した。
「まず恭順していた家々の扱いから手をつけます。
これまでは番役方の与力として扱っていましたが、これを見直します。
元々、家禄も与力手当も与えてなかったのですが、
臣従した家々が入ってくると、収入の面で差が生じます。
それを避ける為に、無役とし、所属を郡代役方とします」
「郡代役方として何をやらせるんだ」
「何もさせません。
形だけの郡代役方です」
「それでいいのか」
「いいんです。
飼い殺しです」
伊東の笑顔が止まらない。
「次は領地安堵の連中です。
これも郡代役方とします」
「飼い殺し仲間か」
笑顔が倍増した。
「はい。
戦にも参加はさせません。
下手に手柄を上げられると論功行賞ものですからね」
「何も分けてやらないと言うことか」
「はい。
それぞれの領地に引き籠ってもらいます。
戦から遠ざけても置けば、そのうちに腕も錆びるでしょう」
「領地を献上した家々のみを優遇すると」
「当然です。
献上したご褒美です」大いに頷いた。
花押慣れをしたところに参謀・芹沢嘉門が入って来た。
「悪い知らせです」
「聞きたくないな」
芹沢がニヤリと笑う。
うちの大人衆はおかしい。
何故か悪い事が大好きだ。
「公方様と三好方が和議をしました。
やはり六角が手を回したようです」
「六角の次の狙いは当家か」
「公方様も三好を追い込めなかったので、次を考えている筈です」
「二人して当家か」
「京の周りで浮いているのは当家だけですから恰好の獲物でしょう」
「そう簡単に獲れるかな」
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