表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
56/248

(近江)10

 観覧席は階段席になっていて見通しがいい。

私の席は階段席のど真ん中。

周囲を美濃勤番の大人衆や諸役方本人や家族が占めていて、

不審者の入る余地はない。

ここでは影武者の出番もない。

代わりに旗本隊の精鋭が最前列と最後列に陣取っていた。

更には城下町にも展開していた。


 私の右席には美濃勤番の参謀・新見金之助。

左席には稲葉山城勤番、一番隊の隊長・松原忠助。

前の席には西濃城勤番の二番隊の隊長・武田貫太郎。

東濃城勤番の三番隊の隊長・井上源次郎。

加納城勤番の十番隊の隊長・原田佐太郎。

 各隊長は馬揃え出場を辞退していた。

聞いてみたら、「私達は部下を採点します」と答えられた。

どうやら正直な気持ちらしい。

それぞれの手元には十数枚の紙と筆が置かれていた。

大変だなと思っていたら、私の手元にも紙と筆が運ばれて来た。

新見が言う。

「殿は採点ではなく、これはと思った者の名を記して下さい。

誰か分からない場合は、各隊長に聞いて下さい。

殿が選んだ者には金一封を贈呈します」


 法螺貝が吹かれた。

それを合図に観閲式が始められた。

左手から派手な演奏で軍楽隊が行進して来た。

派手な旗指物が風に揺れた。

 法螺貝、陣鐘、陣太鼓までは承知していた。

が、音色はそれだけではなかった。

角笛、尺八が加えられていた。

更には意表をついて輿に乗って琵琶法師が登場した。

これには皆がどよめいた。

松原がうな垂れた。

「これは卑怯だろう」


 続いて二番手。

真新しい仕事着の職工達が行進して来た。

それぞれの職種を表す道具を持参していた。

男ばかりではない。

女や元服間近い子供も含まれていた。

 驚いた事にきちんとした足運び。

本職並みとは言わないまでも、混乱はない。

事前に聞いていなかった私は目が点。

「これは」

 新見が説明してくれた。

「直訴されました。

俺達も明智家の家来だろう。

のけ者にするのかと」

「ああ、そうだよな。

それは私が気が付かなくて悪かった。

でも、よく乱れなく行進できるな」

「仕事が終わってから毎日練習していましたよ」


 本職が登場して来た。

総員参加ではなく、各隊から選抜された者達の行進だ。

まず一番隊から。

盾足軽五十名、槍足軽五十名、弓足軽五十名、鉄砲足軽五十名。

そして馬印と旗印、番隊旗を掲げた騎馬足軽百騎。

 鉄砲隊がお約束で、観覧席の真ん前で空に向けて実射。

その轟音にも馬の群れはびびらない。

隊列を乱さず堂々の行進。


     ☆

     ☆


 三好長慶は松永久秀を茶室に呼び、自ら茶を点てた。

一口味わい久秀は茶碗を繁々と見た。

「天目ですかな」

「似ているが、これは近くで焼かれた物だ」

「朝鮮」

「もっと近い」

「まさか・・・、我が国」

「そうだ」

 長慶が久秀に微笑む。

久秀はその意味を理解した。

「美濃焼はそれほどの物ではなかった筈ですが」

「そうだ、それは昔の話だ。

今は銭儲けの明智家がある。

美濃焼にその銭を投げ込んだそうだ。

で、良い焼き物に仕上がったと言う訳だ」

 久秀は茶碗を下ろした。

「あ奴、美濃と近江で馬揃えをやったかと思えば、次は焼き物ですか。

何を目指しているのでしょうな」

「さあな、あの者はよう分らん。

それより分かる話をしよう。

公方様との和議がなったら、お前には慶興を頼みたい」

「若殿を如何様にしろと」

「公方様に慶興を近付けたい。

いや、近付けざるを得ない。

ワシが公方様の側にいるより、慶興の方がよかろう。

さりとて、取り込まれては困る。

その辺りの塩梅をお主に任せたい」


     ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ