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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
53/248

(近江)7

     ☆ 


 三好長慶は将軍山城に陣を置いた。

自分の手勢だけでなく、義輝から離反した幕府の奉公衆も加えた。

近辺の三好由縁の者達も続々と駆け付けて来た。

阿波勢も渡海して来た。

兵糧が心配になるほどだ。

にわかに外が騒がしくなった。

「如何した」

 使番が駆け込んで来た。

「足利勢が寄せて参りましたので、岩成勢が押し返しました。

ただ、足利勢が逃げる際に放火しましたので、

その火消しに手間取っております」

 岩成友通。

大和の地侍だ。

その岩成と仲の良い伊勢貞孝が腰を上げた。

「公方様が己が守護すべき都の一角に火を放たれるとは、

何と嘆かわしい、落ちぶれたものよ。

某も尻拭いに火を消して参ります」

 幕府創成期から政所を担ってきた伊勢家当主。

彼こそが幕府の柱石と言っても差し支えない。

彼を裏切り者と罵る向きもあるが、

彼は将軍個人に仕えているつもりはない。

足利幕府と言う体制に仕えているのだ。


     ☆

     ☆


 私は執務室で書類を吟味した。

屯田の村も、流入する人も増えていた。

それに伴い出費も嵩んでいた。

何度見直しても間違いはない。

それだけ流民が発生していると言うことか。

なんてこったい。

お蝶がお茶を入れ替えてくれた。

「殿、辛気臭い顔。

それじゃ、幸せが逃げちゃいますよ」

 このところ、お蝶の私に対する態度が酷い。

まるで弟のように扱っている。

「知らない所で銭が出て行くと寂しくなるんだ」

「おや、銭は貯めるもんじゃない、貯めると腐る、腐る前に回せ、回せ、

そう仰っているではないですか」

「そうなんだけどね。

でも実際、数字を目にすると妹を嫁に出す気分になるんだ。

まだ出したことはないけどね」

 実妹は家族縁者とまだ近くの屯田の村に滞在していた。

兄は幕臣となったものの、まだ身分が低く、彼等を養える立場ではない。

そこで私に、必ず呼び寄せるから、それまで預かってくれと言う。

この状態が続くと、妹は私の手元から嫁に出るのか。

床の下で子犬が鳴いた。

「クウ~ン」

 もう一匹が応えた。

「キャンキャン」


 大人衆の三人が入って来た。

評定の前に私の耳に入れた方が良いと判断したのだろう。

まず猪鹿の爺さんが言う。

「織田家でちょっとありました」

「例の諍いか」

「そうです、それに決着が付きました。

信長様が御舎弟様を討たれました」

 織田信長と織田信行。

亡くなった先代にどういう思惑があったのか知らないが、

二人を対立するような状況に置いていた。

その思惑通り、二人も周りも踊らされた。

二人の実母までが飛んで跳ねた。

それに決着がついた。

「これで実質的に弾正忠家が一つになったのだな」

「はい、ほぼ全ての方が信長様に付かれました」

「それは目出度い事だが、祝いの品を送るのは拙いな」

「はい、御舎弟様の血が流れていますので。

某にお任せ願えますか」


 参謀の芹沢嘉門が言う。

「都の争いも片付きそうです」

「どうなる」

「現状は膠着して、全く動きません。

このままズルズルと講和する流れになると思います」

 私は不思議な事を聞いた。

「兵力は三好勢が大きく上回っているのだろう。

三倍近いのではなかったか。

それなら包囲殲滅も簡単にできるだろう。

それがどうすれば膠着するんだ。

どうして講和になるんだ」

 芹沢は気難しい顔をした。

「長慶殿の性格としか申せません」

「性格・・・、もそっと正確に申せ」

「公方様のお命まで取る気はないと見ました。

長慶殿は根っからのお人好しのようです」

 呆れてものが言えない。

「禍根を残したままにすると言うのか。

また畿内が荒れ、もっと沢山の血が流れるぞ」

「そうとしか思えないのです。

その証拠に長慶殿は六角義賢殿の手の者と頻りに会っています」

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