表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
52/248

(近江)6

     ☆


 新年を迎えて間もない朽木谷が暗雲に覆われた。

都から寝耳に水の知らせが届けられた。

足利義輝は驚愕のあまり、立ち上がりかけた。

「なに、改元だと」

 弘治から永禄への改元が決まった。

将軍抜きで進められたことに義輝は怒りを覚えた。

改元発布は本来は朝廷の専権事項だったが、

武士の台頭により干渉を受けるようになった。

最大の問題はかかり費用。

今の弱体化した朝廷では捻出できない。

そこで費用を武家政権に頼るようになった。

金をだせば口もだすもの。

干渉を受けざるを得ない状況に置かれた。

なのに今回は武家政権の頭領抜きで決められた。

 義輝は一呼吸を置いて立ち上がった。

小姓から太刀を奪うように受け取った。

鞘を板間に投げ捨て、抜き身片手に庭先に飛び降りた。

軽い足取りで立ち木に向かい、ススッと歩を進めた。

上段からの斬り落とし、袈裟斬り。

「ボキン」

 はばきから折れた。 


     ☆

     ☆


 松永久秀は三好長慶に報告した。

「朽木谷のあれが釣れました。

改元の怒りのあまり、あちらこちらへ御内書を出しております」

「大漁になるかな」

 嬉しそうな顔の長慶を久秀は頼もしく見遣る。

「少なくとも管領や六角は」

「もう少し欲しいな」

「近場ですと目ぼしいのは似非守護代か国人衆くらいでしょうな」

「集まりが悪くて出陣せぬでは困る。

なんとかしてやれ」

「そればかりはなんとも」

「そうか、なんとしても公方様を鳥籠に押し込めたいものよ」

「臣としては、戦ですから討ち取っても問題はない、そう申し上げます」

 長慶は溜息ついた。

「お主だから言わせてもらう。

・・・。

ワシにその気はねえよ。

小さな頃から馬鹿な連中に馬車馬のように働かされて、もうがたがた。

お陰さまで新しい家を建てるような元気は少しも残っちゃいねえ。

ぼろぼろだあ。

幕府なんて糞食らえだ。

魏の曹操殿のように途上にて死ねれば本望だな」

 久秀が真剣な目で主を見た。

躊躇いがちに口にした。

「曹操殿のお子が献帝から禅譲されています」

 長慶は久秀を見返した。

目が笑っていた。

「お主は相変わらずだな。

お主が司馬懿で久通が司馬昭となるか」

 慌てて久秀は平伏した。

「滅相もございません。

一族、末代までの忠誠をお誓い申し上げます」

 長慶は満足げに笑みを浮かべた。

「戯言よ、戯言。

お主や久通は信用している。

信用できぬのは・・・、言わぬが花か」


     ☆

     ☆


 足利義輝が挙兵した。

朽木谷から坂本を抜け、賛同者と合流して如意ヶ嶽に陣を置いた。

幕府奉公衆と管領・細川晴元、三好政勝、香西元成らの手勢、

これに六角家からの支援も加わり、おおよそ三千名。

 万の兵を予想していたが、あまりに少ない。 

義輝としては当てが外れた。

六角家の兵が少ない訳は理解していた。

小谷城の明智家への備えを残さざるを得なかったのだ。

それでも忸怩たるものがあった。

自分の読みの甘さではなく、自分に挙兵を勧めた者の読みの甘さにだ。

 特に管領・細川とか、管領・細川とか、口だけは威勢がいいのだが、

使い古しの手駒、三好政勝と香西元成の手勢だけとは。

血筋だけで、なんとも頼りなき者よ。

嘆息をもらした。

それとなく周りを見回した。

皆が自分に注視していた。

隅の方の新参者が身を乗り出した。

「某が一当てして参りましょうか」

 明智光秀。

手勢は少ない。

二十名ほど。

新参者にしては、・・・場を弁えた気遣い。

心意気は買うが心許ない。

義輝は近臣の細川藤孝を見た。

「光秀をその方の与力とし、軍勢を見繕い一当てして参れ。

足利の戦ぶりを光秀に確と伝授するのだ」


     ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ