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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
51/248

(近江)5

 廊下で足音が止まった。

室内に向けて跪く気配。

「慶興様がおなりです」

 三好慶興。

長慶の嫡男だ。

機嫌の分かり易い足音が近付いて来た。

昨日、先触れから聞いていたので、気持ちは分かる。

部屋の外でピタリと止まった。

「父上、入ります」

 先客の松永に気付いた。

「出直しましょうか」

「構わん。

久秀にも話してやれ」

「はい」

 慶興は懐から書状を取り出した。

それを父に手渡し、松永に説明した。

「久秀殿、お前のお気に入りの近江のあれから手紙が来た」

「はあ、お気に入りですか」

「門前払いしたあれだ」

 松永の顔が一変した。

「小谷城のあ奴ですか」

「そうだ、私と同年生まれだそうだ」


 三好長慶は手紙を一読すると、顔をほころばせた。

「慶興、取り次ぎは誰だ」

「久通です」

 松永久通。

久秀の嫡男だが、今は手元を離れて慶興の側仕えをしていた。

これには久秀も驚いた。

廊下に控えていた久通を睨み付け、慶興を見た。

「聞いておりません」

 慶興が軽く頭を下げた。

「すまん、私が内密で運ぶように指示した。

怒らんでやってくれ。

私も返事が戻って来るとは思わなかったのだ」

 長慶も慶興の味方をした。

「そういう訳だ」

 手紙を久秀に手渡した。


 久秀は複雑そうな顔で読んだ。

読むに従い顔色を変化されて行く。

「喰えぬ奴ですな」手紙を長慶に戻した。

 受け取って長慶が言う。

「慶興と同年。

久通の一つ上。

それでも名の知れた城を二つ落とした。

まともではなかろう。

・・・。

久通、小谷城に赴いたのだろう」廊下に控えている側仕えに尋ねた。

「はい、慶興様のお手紙を届けて参りました」

「それでどうだった」

「明智家の領内は戦後とは思えぬほど平穏です。

前の城下町は知らないので比べようがないのですが、

今の城下町は大いに栄え、人で溢れています。

その為、各地から商人がやって来て店を構えているそうです」

「城の様子は」

「私は城には入れてもらえませんでした。

それでも門番や取次役方が丁寧に応対してくれました。

てきぱきして目端が利く者ばかりでした。

あれで全員が足軽だと言うのですから驚きです」

 

 長慶は目を窄めた。

「取次役方も足軽なのか」

「はい、直臣は全て足軽で、役付きか、そうでないか、

それだけの違いだそうです」

「なんだそれは」

「足軽としての家禄を銭で支給され、

役付きになると役付手当てがそれに上乗せされるそうです」

「ほう、武士ではなく足軽か、そして土地は与えぬのか」

「はい、代わりに銭で貰う、そう申してました」

「美濃や近江の国人達はどうしてる」

「仕えている訳ではありません」

 思わず久秀が尋ねた。

「美濃勢が浅井や六角と戦ったときは、

明智家の下に纏まっていたと聞いたが」

「一時の方便のようです。

ですが表立って明智家に反抗する国人はいないと思われます。

明智家の軍はいつ何時でも戦える態勢でいますから」

「それほどか」

「農村から徴用しないでも一万を超える足軽を動かせます。

これに恭順した地侍の与力勢を加えると一万五千。

美濃近江の国人が従えば三万を優に超えます」

「鉄砲もあると聞いたが、それは」

「二千丁も間近いと聞き及んでいます」


     ☆

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