表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
48/248

(近江)2

 結局、実家の皆は領外に退去する事を選んだ。

さりとて直ぐに次の当てがある訳ではないので、

足弱の老人や女子供を残して、若い者達が仕事探しの旅に出た。

伝手を活かして仕官すると言う。

 私は居残った者達に城下町から外れた屯田の村を世話した。

弟や妹、そして他の子供達に申し伝えた。

「ここは銭雇いが暮らし、耕し、鍛え、学ぶ村だ。

普通に仕事していれば食うには困らない。

職人になるもよし。

足軽になるもよし。

領外に出るもよし。

時間はたっぷりある。

よく考えて選ぶがいい」

 弟に尋ねられた。

「兄上、私はここで侍になりたいです」

「それは光秀兄上と話し合ってから決めろ。

兄上が土岐明智家の当主だからな」

 妹にも尋ねられた。

「私、光国兄上と一緒にいたい。

駄目ですか」 

「それは嬉しいが、光秀兄貴と話し合ってからになるな」


 母が私を呼び止めた。

「光国殿、ちょっと宜しいかしら」

「はい、母上」

「貴方にとって土岐明智家とは何なのですか」

「兄上が継ぐべき家です。

それ以上でも、それ以下でもありません」

 母は寂しげな顔をした。

「愛着はありますか」

「はい、それなりに」

「それでも兄を助けてくれないのですね」

「はい。

助けるのは簡単です。

でもそれをやれば、兄上の立場がなくなります。

そしてそれは何れ兄の廃嫡に繋がります。

必ず出るのですよ。

不平不満を形にして現す愚か者が。

母上はそれを見たいと思いますか」

 父の反乱も私への不平不満の現れだったと思う。

そういう事は当世、珍しくもない。

親子で、兄弟で、近しい者同士で争う。

それを周辺は煽りに煽って、甘い汁にありつこうとする。

その手の話は腐るほど聞いた。


 面倒臭いことになった。

どういう伝手か知らないが、兄が室町幕府に仕え、

その足で公方様からの御内書を持って戻って来た。

近臣の副状が添えられているので、体裁は整っていた。

取次役方の話では、兄はそれをさも得意そうに取り出したそうだ。

「公方様直々に頂いた」

 暗殺好きと噂の剣豪将軍・足利義輝。

彼は三好長慶に追われて近江の朽木谷に避難していた。

避難してもう五年ほどか。

それでも京の幕政は将軍や重臣がいなくても成り立っていた。

日常業務を三好一党が代行していたからだ。

追い出した者なりの責任の取り方かも知れない。

朝廷と連携して、滞りなく政を行っていた。

 お陰で公方様御一行は避難先で大いに暇していた。

暇すぎて趣味に没頭する毎日を送っていた。

その一興として、兄を取り立てたのかも知れない。

なにしろ琵琶湖の対岸に小谷城がある。

此度の戦火が朽木谷に及ばなかったにしろ、興味はそそられる。

土岐明智家の兄と稲葉山明智家の弟。

無聊をかこつ者としては、うってつけの暇潰しだ。


 大広間に近江にいる大人衆を集めた。

「皆も知っているように、兄がしでかした。

よりにもよって公方様だ。

困った困った、大人の悪知恵を貸せ」

 芹沢嘉門が苦笑いを浮かべた。

「困ったようには見受けられませんが。

良いでしょう、大人の悪知恵を。

・・・。

御内書は開けませんが、添えてある副状は確認しました。

大舘晴光でした。

どうやら本物のようです。

逃れられませんが、幸いにも殿は無位無官。

使者様にお会いするのは失礼です。

ここは一つ、逃げの一手で参りましょう」

「分かった、面会は固辞しよう。

使者を城に入れるな。

公方様の御内書に触れるのも、おこがましい。

・・・。

ところで兄はどういう伝手で公方様に会えたのだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、兄の立場が無くならない助け方なんていくらでもあるだろ 表面上取り繕ってはいるけど三好にも将軍にも不快な思いさせてるよな、言い訳できるように追っ払えればいいのか……? [一言] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ