(近江)1
近江の統治に忙殺されてるのに面倒な連中がやって来た。
実家の御一党様だ。
祖父祖母、母、兄、弟、妹、叔父一家、もう二つの叔父一家。
地縁血縁の者達を含めると五十名近い人数だ。
実家で謹慎している間に身の振り方を考え、
どうするのか決めると思っていたのだけど、
近江にノコノコ姿を現した。
これには取次役方の面々も困った。
それを上に投げられた大人衆も困った。
結局、私に丸投げされた。
大広間で代表者と会う事にした、
祖父・光継、叔父・光安、兄・光秀。
私が許すと三人が揃って顔を上げた。
兄が真ん前で、祖父と叔父がその後ろ。
揃いも揃って顔色が悪い。
あっ、うちの大人衆に気圧されていた。
みんな仕事が詰まってて超不機嫌。
その捌け口が目の前の三人か。
仕方ないよね。
私が黙っていると、困った顔で叔父が口を開いた。
「光国様、浅井久政を討ち取り、戦に勝利したこと、
土岐明智家を代表して言祝がせて頂きます」
これは兄が口にする言葉だったのだろう。
叔父の顔がそう語っていた。
当の兄は、ようやく目を覚ましたのか、うんうん頷いた。
これでは話が進まない。
私も大人衆も忙しいさなか、わざわざ貴重な時間を割いた。
それを無にするつもりか、この兄っ。
「皆様の御用向きをお聞かせ頂きたい」冷静に言った。
ようやく兄が口を開いた。
「我等はどうしたらいい」
「はて、美濃を任せている取次役方から説明があったでしょう」
「聞いた。
それでどうして我等は土地を追われるのだ」
「父が兵を挙げて私を討とうとしたのはご存知か」
「それは承知している。
しかし、それは父であって、我等ではない」
祖父が二度三度、深く頷いた。
叔父は私から目を逸らした。
私は開いた口が塞がらなかった。
こんな状況をもろに実感する羽目になるとは。
同意を求めるように大人衆を見回した。
皆が同意するかのように、私に頷いてくれた。
「兄上、よく理解してくださいね。
私は、父やそれに同調した者達の家を取り潰したのです。
何もしていない者達は罰していません」
「それでは、私達は罰された訳ではないのか」
「ようく聞いて下さいね。
私は兄上達には何もしません。
ただ、取り潰した家の物は全て稲葉山明智家の所有になります。
ゴミすらも当家の物になります。
何もしていなかった方々が、
その土地に何時までも居座って頂いては困るのです。
そこは当家の土地になったのですから」
「私達にどうしろと」
「それは皆様が考えて、決める事です。
私からは何も申し上げる事はありません」
「それじゃ困る。
母や皆にどう説明すればいい」
「それは土岐明智家の現当主である兄上の仕事でしょう。
選択肢は三つ。
・・・。
帰農するのなら兄弟の誼で土地を与えましょう。
領外に出られるのなら兄弟の誼で金子を幾許か差し上げましょう。
父の仇討ちで決戦をお望みなら、
これまた兄弟の誼で武器を差し上げましょう」
兄は目を大きく見開いた。
今にも目玉が零れ落ちそう。
代わりに祖父が口を出してきた。
「我等は血が繋がっているのだぞ。
なのに土地を奪うだと、鬼畜のような所業ではないか」
「お爺様、よく聞いて下さい。
斎藤家は当家に負けて稲葉山の地を失いました。
浅井家も当家に負けて小谷の地を失いました。
同じように土岐明智家も当家に負けて明智の地を失いました。
ただ、それだけのこと、ありふれた話です。
それでは私は忙しいので、ここで失礼しますよ」もう相手はしない。
祖父が怒鳴り始めた。
額から火を噴き出さんばかり。