(開演)4
私は座をぶった切ることにした。
父に視線を転じた。
「当主様、新商品を用意しているのですが、如何いたします」
一昨日に告げてあるので無作法ではない。
それでも当惑する父。
すると叔父・光安が乗って来た。
「皆も疲れているでしょう。
ここらで一休み入れましょう」父が頷くのを見て、
「光国様、新商品とやらを見せていただきましょう」私に催促した。
私は廊下で控えている側仕えの助さんに声をかけた。
「土方、運んでくれ」
「承知しました」
土方の指示で若侍達が新商品を運んで来た。
清酒の小樽が二樽。
薬酒が小樽が一樽。
側仕え筆頭の近藤が手際よく、樽の蓋を開けた。
ムッとした酒の香りが室内に広がった。
お園が柄杓三本をそれぞれの樽に置く。
女中二人が盃を列席者に配って行く。
それらを確認した私が説明した。
「今度は村で酒を造りました。
透明なのが清酒です。
赤っぽいのが薬酒です。
お好きにお飲みください」
大人達が我先に座を立った。
光安が慌てて言う。
「待て待て、まずご当主様からだ」
二つを飲んで満足そうに頷く当主様。
「光国、これも量産できるな」
「縄張りは終えています」
「また銭が増えるか」
「蔵も増やしましょう」
「他には何か」
私達が打ち合わせる後ろで祖父達が樽酒を味わっていた。
何れも満足気な表情。
私の陰口を叩く者達も酒に群がった。
陰口を叩く口で酒を飲む。
顔を赤くして上機嫌。
私を褒めないくせに酒は褒める。
「うっ、美味い」
「こんなに美味い酒は初めてだ」
ああ、こんな大人にはなりたくない、そう思った。
評定が終わったので私は館に戻ろうとした。
そこを父の近習の一人に呼び止められた。
「お館様が奥の間にてお待ちです」
案内されて行くと、四人が顔を揃えていた。
父・光綱。
兄・光秀。
祖父・光継。
叔父・光安。
四人が私を見て会話を止めた。
私は空いた所に腰を下ろした。
皆に向けて軽く頭を下げた。
「お呼びでしょうか」
祖父が口を開いた。
「ワシが呼んでもらった」
「何でしょう」
祖父は言葉を溜めるかの様に黙り、私をジッと睨んだ。
こういう場合、自分から口火を切るのは拙い。
どこでどう、揚げ足を盗られるか分からない。
だから黙っていよう。
祖父が焦れたかの様に口を開いた。
「光国、お前の存念を知りたい。
何を考えているのか、ここで披露してくれ」
「はて、何をどうお答えすれば満足されるのですか」
「お前が銭で雇っている者は何人いる」
「二千は超えています」
本当はもっと多い。
無能な国主と戦続きのせいで、
衣食住職に困っている者達が流民化していた。
それらを私は銭の力で雇っていた。
その正確な数は内緒、手の内は晒せないよね。
「足軽にはしないのか」
「私が雇っている者達は矢銭を生む者達です。
戦で死なせるには惜しいので足軽にはしません」
「ワシは領地の農民は足軽、雑兵として戦働きさせておる。
お家に貢献する気はないのか」
「はて、・・・矢銭で貢献していると思うのですが。
村よりも、町よりも、商人よりも、寺社よりも、私が一番に収めています。
そうですよね、ご当主様」