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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
37/248

(美濃)7

     ☆


 今年も野分が来た。

招待していないのに、押しかけて来た。

それも二つ続けて。

お陰で未完成の堤防が一つ、流された。

が、幸いにも人的被害は少なかった。

高台の備蓄倉庫も無事。

昨年より軽傷で済んだ。

 それでも私は事後処理で大わらわ。

そこへ厄介な奴が。

西美濃三人衆の一人が来た。

取次役方の案件である。

私が直接会う必要はない。

ところが取次役方から私の方へ聞き取りした文書が上げられた。


 大広間へ入ると奴が平伏していた。

「面を上げよ」

 氏家直元が顔を上げた。

彼は疲れた顔をしていた。

「お久しぶりでございます。

無理を承知でお伺いいたしました。

是非ともお耳に入れたいことが有り、参りました」

「聞かせてくれ」

「収穫が終わり次第、六角が美濃に攻め込んで来ます」

 それは猪鹿の爺さんから聞いていた。

猪鹿家は甲賀衆の一つ。

近江国甲賀郡。

近江の動きを知らぬ訳がない。

浅井が先鋒とも聞いていた。

「近江は野分の被害を受けなかったのか」

 被害を受けていれば兵糧の集まりが悪い。

それであれば無理して攻めて来ることはない。

「近江は美濃ほどではなかったみたいです」

 今回の野分は尾張の方から来たのか。

なるほど。

「それで貴公は私にどうせよと」

「只今、不幸な事に美濃には守護代がおりませぬ。

ついては稲葉山明智家に近江勢撃退の柱になって頂きたいのです」

「どうして当家に」

「最大兵力を有している明智家が柱でなくば、撃退出来ませぬ」


 取次役方からの文書を事前に目を通しているので驚きはせぬが、

解せぬ。

何故、私なんだ。

私に美濃衆がついて来るか。

斎藤家とは和解したが、他とはまだ火種が残っていた。

それも色々と沢山。

素直に尋ねた。

「貴公は当家について来るかも知れんが、

他はついて来ないと思うがな」

「某が説得いたします。

お任せ頂きますか」

「時間に余裕はないだろう」

「それでも説得せねば近江に屈する事になります。

なにとぞお任せください」

 

 うちの大人衆は血生臭い話を好む。

氏家との話を前向きに、より広げて進めて行く。

なにより、かにより、両者の関係がいい。

大人衆は氏家を旧来の友のように扱っていた。

氏家は氏家で、まるで我が家のように振舞っていた。

私の出る幕がない。

得意技、丸投げだ。


 辟易した私は執務室に戻った。

すると、疲れた私を待ち兼ねていた二人がいた。

お園とお宮だ。

私に一冊の本を目の前に差し出した。

【三太郎物語】

 印刷工房と絵師の力作だ。

試し刷りで十冊限定の絵本。

それがどうして二人の手に。

お園が怒った顔で言う。

「殿、これはどういう代物ですか」

 お宮も言う。

「言語道断ですわね」

 私が執筆したんだけど。

この殺伐とした空気では言えない、言えない。

私は助けを求めて男子の側仕え達を見遣った。

あっ、皆して目を逸らした。

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