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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
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(美濃)3

 結局、後見人を引き受ける事になった。

だからと言って私が出向ける訳がない。

大桑城の城下町に設えられた稲葉山明智家屋敷から、

大人衆二人が毎日出仕する事で落着した。

その効果は覿面だったそうだ。

後見人を売り込みに来ていた者達の足が遠のいたと書状が来た。

 夢にも思わなかった穏やかな時間が訪れた。

この秋は美濃全土の兵が訪れると危機感を持っていただけに嬉しい。

戦争が回避され、内政に集中できる。

そう感慨にふけていたら、別の敵が訪れた。


 野分だ。

訪いもなく、風と雨を伴い、押し寄せてきた。

これだけは凌ぎようがない。

人的被害を最小限に留めるしかない。

田畑は荒らされても回復はできる。

でも人はそうではない。

領内各所に使番を走らせた。

「まず人の命を救え。

高台にある城や砦、寺社、屯田の村は避難して来る領民を受け入れよ。

炊き出しも行え。

掛かった費用は当家が支払う」

「番役方は野分が過ぎ次第、出動する。

取り残された者の救助と怪我人の治療、並びに領内の復旧を行う。

必要な物を揃えて準備せよ」


 野分が過ぎ去ると番役方が大奮闘した。

人海戦術で救助と治療で大車輪。

目処がつくと荒れた領内の復旧復興に取り掛かった。

優先したのは河川工事。

 今回の野分で領内を流れる河川の弱い箇所が露わになった。

堤が崩れ易い箇所、水が溢れ易い箇所。

複数の古老にも聞き取りした、

それらを踏まえて大規模河川工事計画を練り上げた。

 舵取りは普請奉行、与力は番役方と職人村の職工達。

領内領外を問わず、老若男女を問わず、高賃金、飯付き、宿舎付き、

休日ありで人夫を搔き集めた。

数こそは力。

 当然だが、長良川は南岸のみ、木曽川は北岸のみの工事。

誰の目にも明らかな自領のみを守る工事。

猛威を振るう濁流を領外へ誘導する工事と言い切っても差し支えない。

つまり隣接する領地は遊水地扱い。

自領の民を守る、それが私に課せられた責。

露骨だけど、慈善事業じゃないのよ、河川工事は。

莫大な銭食うしね。


 計算外な事が起きた。

工事を終えた箇所から順次、賃金を支払って元の村へ帰すのだが、

領外から来た人夫の多くが帰るのを拒んだ。

「ここに住まわせて下さい」

「仕事なら何でもします、どうか雇って下さい」

「村に戻っても食っていけません」口々に言い募る。

 家族揃って仕事に来ていた者達が大勢いた。

最初は様子見で来て、実際の待遇を体験して、そう決めたのだろう。

見ると聞くとは大違いな事が多いので、彼等の行動は理解できた。

元の村からは私が恨みの的になるだろうが、喜んで受け入れる事にした。

中には紐付きもいるとは思うが、猪鹿の爺さんなら手抜かりはないだろう。


 忙しさにかまけていたら正月がきた。

このところ城全体で掃除や荷物の搬入が多いなと思っていたら、

目の前で年が暮れて明けた。

疲れた、休みが欲しい。

 大広間に大勢が雁首を揃えていた。

大人衆は元より、各役方の者達から奥向きの女中達まで、

はち切れんばかりの笑顔で私を迎えてくれた。

大人衆筆頭・伊東康介に重々しく言上された。

「殿、恙なく正月を迎える事ができました。

これも偏に殿のご威光によるものです。

我ら一同、大いに感謝いたしております。

至らぬところもありますが、お見捨てにならず、

今後も我ら一同をお導き下さい。

伏してお願い申し申します」

 そして一斉に頭を下げた。

「明けましておめでとうございます」

 大広間が震えた。

年頭の凍える寒さを吹き飛ばさんばかりの声量。

私が年末に溜めた疲れが一掃された。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んで物語進行のバランスがとてもいい作品だな、と感じました。 読み易いですし、知識チートや交渉、策のディティールにあまり踏み入らず任せる。 違和感を出さずテンポもいい。面白いです。…
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