(美濃)1
既に守護代の座を巡って争いが始まっているのか。
嫌だな、関わりたくない。
特に道三、守護、この二人。
誰が守護代になろうとも当家と対立するのは必至。
決まるまでは高みの見物、そう思っていた。
それを芹沢が打ち砕いた。
「否応なく当家も巻き込まれます。
美濃で最大の兵力を有しているのは当家です。
当家を無視して守護代に就くのは誰であれ尻込みするでしょう。
就くとすれば事前に相談があるのではないでしょうか」
「えっ、当家は敵ではないのか」
「それは義龍殿が生きていたらの話です。
義龍殿が戦死したので全てが白紙に戻りました。
一部、不満な者もおりましょうが、何もできません」
つまり道三や守護からの接触があると言うのか。
汚爺さん二人。
お断わりしたい。
稲葉山城の蔵を調べていた新見金八から報告が上がった。
残っていた武器はこんなものだろう。
防具もこんなものだろう。
彼等は装備して戦場へ赴き、そのまま大桑城へ転居した。
これだけの数が残っていた方が不思議だ。
それ以外には目を剥かされた。
あるわあるわ現物の山、そして現金の山。
斎藤家がこれまで築いた財産が残されていた。
流石は守護代家。
道三殿から義龍殿へ受け継がれたものだ。
これだけの物を譲渡して、譲渡されて、どうして親子喧嘩に至るのだろう。
分からん、人の心は。
でも有難う、頂きます、ご馳走様。
織田家から戦勝祝いが届いた。
大広間で使者から目録とお手紙二通を渡された。
目録には尾張の産物が並んでいた。
流石は熱田や津島を掌握している織田弾正忠家。
金に糸目を付けぬ家風のようだ。
取次役方が現物の検収を済ませているので品目に間違いはないだろう。
お手紙は信長殿からのもの。
褒められているので大変に嬉しい。
道三の、どが入っていないので余計に嬉しい。
二通目のお手紙は信長殿の妹から。
お市さん、十才に満たないそうだから、お市ちゃん。
私が前回、信長殿に送った物に関してだ。
それの感想が連ねられていた。
素直に喜んでくれていた。
それはゲーム。
前世の、【魔王様ゲーム】をこちら風に手直ししたもの。
半畳ほどの板に描かれた街道を、サイコロを転がして、
出た目の数だけ街道を進み、連泊したり、枝道に飛ばされたり、
色々な障害を乗り越えて鬼が島へ行くもの。
【いらっしゃい、鬼が島】
お市ちゃんが手放して賞賛してくれた。
今まさに、それを大増産中。
試作品を取引先の商家複数に送ったところ大好評。
作ったそばから、川舟に乗せられて行く。
織田家への返礼品に悩んだ。
結局、当家の孤児や流民の子等用に作らせた教本を送る事にした。
読み書きに不自由せぬように誂えさせた教本だ。
絵本から万葉集、四書五経の簡易版まで。
加えて算盤。
それらを複数送った。
喜ばれるかどうかは知らないが、信長殿なら理解してくれると思った。
ついでとは言わないが、手紙二通も託した。
戦勝祝いは織田家だけからで、他からはなかった。
実家もそう。
ぽっと出の分家だから、扱いかねているのかも知れない。
まあ、それはそれとして、執務室に猪鹿虎永を招いた。
「実家と斎藤家の例の話はどうなった」
「期日は掴んだのですが、義龍殿の戦死が影響して、
動きが鈍くなりました。
このままですと、立ち消えですな」
「そうか。
しかし、禍根は残したくないな」
虎永は無表情になった。
「お任せいただきますか」
「父には手出し無用だぞ」
「分かっております」
五日後に猪鹿虎永が報じた。
「明智家の三宅、斎藤家の三宅、従兄弟同士が仲良く姿を消しました。
噂では神隠しに遭ったようです」