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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
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(開演)3

 上座から父・光綱が兄・光秀に尋ねた。

「嫡男としてどう思う。

忌憚のない考えを申せ」

 光秀は上座を向いた。

「皆の思うところは分かります。

私は私で思うところも有ります。

されど今は明智家として一枚岩にならねばなりません。

一族で相争わぬ為に当主様に従います」両手をついて頭を下げた。

 下座の者達が光秀に倣うので私も倣った。

言いたいことは色々あるが、一族が一枚岩になるのは、これ大事。

当主に一任した。

その当主が即座に決断した。

「道三様につく」

 座に漂う妙な空気。

父が光秀に深く頷いた。

祖父と叔父の顔が緩む。

もしかして私を除いた四人で事前に打ち合わせていたのか。

たぶん、そうだろう。

元服して間もない私を甘く見ているのだろう。


 話が次に進んだ。

出せる兵力、兵糧。

各自が出せる数を自己申告した。

想定される戦場が近い事もあり、それぞれが最大数を上げた。

何も言わないのは私だけ。

そんな私に父・光綱が目をくれた。

「光国、お前はどうだ」

 私は惚けた。

「私には領地も家来もいません。

私の側仕えは当主様の家来です。

それで私に何を差し出せと」

「はあっ、何を言っておる。

お前の手足になって働いている者達が大勢いるであろう」

「あれらは私が銭で雇っている者達です。

誰一人として明智家の禄は食んでおりません。

そこのところはお間違えなく」

 父は唖然して私を見詰めた。

「なにっ、そうなのか」

「そうです。

薬師、鍛冶師、指物師、研ぎ師、石工、大工、陶工、諸々職人です。

あの者達は明智家の矢銭を稼ぐ為にいるのです」


 座が静まった。

元服前より光国名義でお家に大口の矢銭を収めているのだが、

武士らしくないと陰口を叩く者が多い。

彼等の感情は分かる。

武士は刀槍で稼ぐもの、血を流して稼ぐもの。

武力が全て。

 しかし私はそれが全てではないと思っていた。

十万を越える兵力でもって畿内に侵攻した大名は幾人もいた。

当然、京の町も支配した。

が、治め切れなかった。

疲弊し、ついには駆逐され、逃げる様にして撤退して行った。

 単純な武力だけで戦乱を収められるのなら、とうに収まっていた。

前世でもそれは同じだった。

単純な武力は時と共にすり減って行く。

そして別の単純な武力によって弾き飛ばされる。

残念な事に私は正解を知らない。


 私は今、年相応に全力を尽くしていた。

ここ五年ほどは私が一番、矢銭で明智家に貢献した。

領地も家来もなしで、無から有を生み出した。

私が頭を絞り、雇った者達が汗水たらした結果なのだ。

それを無下にされると怒るよ、私。

でも今は我慢、我慢。

猫を被るのだ、私。


 重いよ、重いよ、空気が。

私は祖父・光継に尋ねられた。

「お前の雇っている者達が河原で刀槍を振り回しているのを見かけたが、

あれはどういう事だ」 

 狭い領内だから見られるよね。

あれは見た通りの戦闘訓練。

だけど認めない。

「戦に巻き込まれた時に多少は戦えるように鍛えてはいます。

あくまでも逃げる為です」

「法螺貝を吹かせ、陣太鼓を叩かせてるではないか」

「お褒めにあずかり恐縮です」

 下手に続けると藪蛇になりそうなので、言葉は短くした。

祖父は困った様に首を捻った。

代わって兄の光秀が口を開いた。

「光国、初陣せぬか」

 お誘いが来た。

けど普通は楽な戦を選ぶ。

勝てる戦だ。

しかも前線には立たせない。

戦の空気を味わせるだけ。

でも今回はどうしても負け戦、死に直結する。

「ありがとうございます。

けれど今回は遠慮します」

「どうした、怖いのか」さも心配そうに尋ねられた。

「ええ、怖いです。

次にお願いします」

「そうか」困った顔。

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― 新着の感想 ―
[一言] 光秀、美濃明智家の本家出身設定なんですね。 結構珍しい設定ですけど、話がサクサク進んでいく本小説のスタイルには分かり易さ重視で合ってると思います。 それに、元々出生不明の人物ですしね。
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