(稲葉山城)15
猪鹿もだが、職工達も物造りに拘りがある。
私はそんな彼等が好きだ。
「ほう、銃剣か、捻りがないな。
それでは見せてくれ」
猪鹿は従者からちょっと長めの槍の穂先を受け取り、
銃口の下に手早く装着してみせた。
それを私に差し出した。
受け取った。
手頃な重さだ。
立ち上がって構えてみた。
銃床が肩にしっくりくる。
銃身が長いので槍にもなる。
振り回すのにも支障はない。
肩から下げられるように紐もついていた。
銃剣と紐が脱着式、考えられていた。
職人魂を爆発させた仕上がりだ。
だったら私の財布も誘爆だ。
「関わった職工達に金一封を贈る。
副賞として清酒二樽、これも手配しよう」
私は参謀の芹沢嘉門と新見金之助に指示した。
「鉄砲の配備を開始せよ。
刀槍に比べて鉄砲は学び易いが、銃剣は新たな試みだ。
槍術を銃剣術に落とし込め。
委細は任せた。
あっ、ただ、馬も帯同させて鉄砲の音に慣れさせろ。
人より馬が慣れるのに時間がかかるかも知れない。
頼んだぞ」
吉事は重なるものらしい。
半月前、木曽川経由で尾張や伊勢に明智印の商品を送った。
それが好評のようで、商人複数から注文が入るようになった。
これまでは近江商人頼りだったが、
これに尾張商人や伊勢商人が加わる事になり、一気に商圏が拡大した。
確かな手応え、これは増産の一手だろう。
各村の工房を建増ししよう。
山あり谷あり。
悪い知らせが来た。
持って来たのは猪鹿虎永。
「甲賀衆の一人を明智のご実家に潜らせています。
それによりますと、ご実家が斎藤義龍殿と和解いたしたそうです」
「ついに父が隠居に同意したのか」
「いいえ違います。
隠居する代わりに明智印に関わっている職人達を、
斎藤家に売り渡す事で双方合意に達しました」
青天の霹靂。
自分の身代わりに職人たちを売るか。
堕ちたな父上、屑だ。
「裏取りしたのか」
「義龍側に潜らせている者が事実と確認しました。
ご実家の三宅正利と義龍側の三宅則正が従兄弟同士なので、
その伝手で密かに、やり取りをしていたそうです」
「叔父は知っているのか」
「蚊帳の外です。
大殿やお兄上もです。
義龍殿の側も多くの者が知りません。
三宅の従兄弟同士の手勢で密かに事を進めるつもりのようです」
「売り渡し期日は」
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