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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
246/248

(新時代)11

 石山本願寺。

そう、一向一揆の総元締め。

それが堺への途次にあった。

当家としては恨みはないが、先方からは大いに恨まれているだろう。

越前・加賀・能登の一向一揆を根切りしたからだ。

当家だけではない。

義兄も伊勢・三河の一向一揆を根切りした。

長尾家も越中の一向一揆を根切りした。

 事前に知っていたが、どうも気が重い。

どうしたものか。

解決策が思い浮かばぬまま、堺へ発つ事になった。


 一行の先頭近くに見慣れぬ男を見つけた。

遠目にだが、偉丈夫の一言。

鎧兜を身に付ければ一角の武将だ。

私の視線に気付いたのか、近藤勇史郎が馬を寄せて来た。

小声で囁くように言う。

「あれが堺の納屋衆の一人、田中宗易。

見知り置いて損はない」

 建前通りの姿勢を崩さない近藤に、私は思わず苦笑した。

「物腰はどうなのですか」

「お宮殿によれば、柔らかく、かつ、商人としての芯が通ってるそうだ」

「面白そうな御仁ですね。

機会があれば一度、茶の席に招きましょう」


 何事もなく山城から出た。

入る際には色々な目が有ったのだが、出る際には少なくなっていた。

正式に和議が締結されたので、束の間だが、

平穏が訪れたのかも知れない。

小者姿に扮した猪鹿の爺さんが私に囁いた。

「油断したらあかんだよ。

これから増々難しくなるんや。

その辺り、分ってるよな」

 私が緩みかけたのをお見通しのようだ。

普段は飄々としている癖に、癪に触る。

でも口にも色にもしない。

「御坊様方の様子は」

「一枚岩ちゃう。

武家の家中とおんなじや。

色んな考えの者達がおる。

そう言うたら分かるやろ」

「特に気を付けなければならないのは」

「坊官ですな。

幕府で例えれば、政所ですな。

奴等が実務を取り仕切っとります」


 一行の先頭が予定の行路から外れた。

直ぐに使番が来て、報じた。

「石山本願寺を迂回するそうです」

 堺の納屋衆、田中宗易からの進言だと言う。

異存はない。

寺内や門前町、そして周辺の信徒を動員すれば即日で二万人、

時を置けば三日で五万人を動員できるそうだ。

それは迷惑以外の何者でもない。


 田舎道だが、人通りが多いようで良く踏み固められていた。

前を行く小荷駄隊の進みに支障はない。

とっ、止まった、隊列が。

新たな使番が来た。

「石山本願寺に動きがありました。

分かるまで我等は先の丘に布陣し、守りを固めます」


 隊列が再び動き出した。

目的の丘までは半刻ほど。

小さく低い丘であったが、兵数的に問題はない。

総員を難無く収容できた。

三河与力衆は嬉しそうに簡易の防御陣地を構築した。

彼等には土木の才があるのかも知れない。


 大久保忠世が私に会いに来た。

「忍びの報せでは門徒数は一万余。

武装してこちらへ向かっております」

 困ったものだ。

私は近藤を振り返った。

近藤が大久保に尋ねた。

「示威行動か、それとも本気か」

「不明ですが、切っ掛け次第では交戦に相成るかと思われます」

「お宮殿と酒井殿の判断は」

「射程に入り次第、交戦に移るそうです」

 こちらも、やる気十分だった。

私は二人の話を引き取った。

「近藤、念の為だ、お主も本陣に加われ」

 事態としては、論争している場合ではない。

近藤は素直に頷きつ、他の側仕え達に命じた。

「死んでも御大将から離れるな」

 側仕え達だけでなく、居合わせた足軽達も応じた。

「「「承知」」」


 丘の向こうに騎乗の者達が現れた。

数は百ほど。

見るからに僧兵の群れ。

停止し、こちらに正対した。

殺意がヒシヒシと伝わって来た。

少し遅れて徒士の衆。

お手軽な武装をしているのが見て取れた。

時間経過と共に人数が膨れ上がって行く。

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