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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
242/248

(新時代)7

 近藤勇史郎に先の戦の様子を尋ねるのは憚れた。

何しろ彼は口数こそ少ないが、強さと優しさを兼ね備えた人。

常日頃は、一方に傾く事はない。

が、私やお家の為であれば、即座に鬼へ傾く。

人はそれを決断力と申すそうな。

真新しい焼け跡は彼の指示によるものだろう、と想像がついた。

 雑草や蔦が絡まる集落跡や社寺跡も見受けられた。

共通しているのは戦で焼け落ちた痕跡。

随分昔の戦で、この様な仕儀と相成ったのだろう。

このまま朽ち果てるに違いない。

そして皆の記憶からも忘れ去られる。

そんな感慨にふけっていると、足下から声がした。

「気に病んではなりませんぞ。

・・・。

諸行無常、万物流転、時々刻々生成発展」


 小者の恰好をした猪鹿虎永が私の馬と並んで歩いていた。

仕事を嫡男に引継ぎ、今は悠々自適の隠居生活の筈が、何故ここに。

疑問の色を読み取ったのだろう。

小さく笑う。

「ほっほっほ、驚かせましたかな。

結構結構、こけっこうですじゃ」

 遠くから鐘の音が聞こえた。

耳を傾けた虎永が言う。

「おおっ、聞こえた聞こえた。

祇園長者の銭の声、チャリーン、チャリーン」

 突っ込んだら負けだ。

私は話題を変えた。

「どうしてここに」

「暇してるので畿内案内を買って出ました」

「お宮殿のか」

「いいえ、殿軍の皆様を」


 言うだけ言うと、虎永は頃合いと見たのか、先へ駆けて行く。

何事かと目で追い掛けると、彼は前を行く小荷駄隊に追いつき、

最後尾の荷馬車にひょいと飛び乗った。

その軽やかなこと、軽やかなこと、驚いてしまった。

とても隠居する者の動きではない。

轡を並べていた長倉金八が小声で私に言う。

「別宅に妾を囲っているそうです」

 女房とは死別しているので、問題はないのだが、

私は興味本位で尋ねた。

「お蝶は」

 彼には孫娘がいる。

沖田に嫁いだ猪鹿蝶だ。

「知らないと思います」

「齢は」

「幸いにもお蝶より年上です」

 なら発覚しても大きな問題にはならないだろう、たぶん。


 都の手前の河川が見えると、一行の前の方から使番が来た。

「このまま進むと、洛中で分宿するのに手間が掛かる。

そこで一旦、ここに夜営する事にした。

皆、手分けしてそれぞれ陣を張れ」

 川向こうに数多な屋根が見えた。

あれが都なのだろう。

よく見ると、半分近くが被災していた。

戦の痕跡だ。


 殿軍へ宛がわれたのは小さな集落跡であった。

ここも戦の痕跡。

近藤が私を手招きした。

「その方は新参者ゆえ分からぬだろう。

真ん中の陣幕を手伝い覚えよ」

 言葉に従い真ん中の陣幕へ行くと、

そこは山南敬太郎が受け持っていた。

「新参者か、某を手伝え」

 山南が私を陣幕の奥へ連れて行く。

擦れ違うのは気心が知れた山南の組下ばかり。

今回の件は彼等に周知されているので、

誰一人として私に頭を垂れない。

山南に一つの床几を勧められた。

「まあ、そこへ腰を下ろせ」

「はい、おそれいります」


 面映ゆそうな顔で山南が言う。

「新参者ゆえ聞いておらぬだろうから、これから説明する」

「はい、お願いします」

「夜営をするが警戒は怠れない。

いつ何時何が起こるか、事前に知る術がないからな」

「ごもっともです」

 山南が露骨に嫌そうな顔をした。

「お主は新参者だから夜の当番から除外する。

足手纏いは困るからな、いいな」

「はい、慣れるように努めます」

「うむっ、分かれば良い。

休むのはこの陣幕とせよ。

何が起こっても命令があるまで、この場で控えておれ。

余計な手出しはするな。

連携を壊されては元も子もない。

その辺り、承知だな」

 山南が私の顔をまじまじと見詰めた。

そんなに信用が無いとは、私は落胆した。

そんな私を見て、山南が嬉しそうな顔で続けた。

「明日はゆるりとした出立となる。

尼子の者が案内に来るのでそれを待つ。

お宮殿の本隊は妙覚寺を宿所とする。

他はその周辺に野営する事と相成った。

我等はその野営組だ、喜べ」

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