(新時代)5
お絹とお市から色々と条件を出された。
それを聞いて驚かされた。
個人的な事から、領政の事までやけに詳しい。
二人は奥に入っているだけの人間ではなかった。
私の側仕え、お園やお宮の薫陶か。
それに違いない。
頭が痛くなる提案もあったが、それを私は全て飲んだ。
その足で大人衆筆頭を訪れた。
「二人の了解を得た、それが条件だったよな」
伊東康介は驚いた顔。
「あのお二人がですか」
「そうだ、あの二人がだ」
「分かりました。
明日にでも皆を再招集し、御大将のご希望を再検討いたします」
伊東は仕事が早かった。
翌々日には私の執務室を訪れて報告した。
「まず第一の案です。
公式に軍勢を率いて上洛して頂きます」
「数は」
「二万から三万」
「それは却下」
「安全の為です。
御大将のお命を第一に考えての事です」
「第二の案は」
伊東はそれ以上の抵抗はしない。
「お宮殿の随行員に紛れて頂きます」
「足軽に紛れる、それで良いのか」
「ええ、殿軍の、騎馬足軽の一騎です。
万一の際は、真っ先に逃げる、そう約束してくれますか」
「お宮を見捨てて」
「お宮殿もそれを望まれています」
執務室には私の側仕え達が常にいた。
今日はそのお宮もいた。
私は彼女を見遣った。
彼女はにこりと頷いた。
お宮は私の親代わりの一人。
それを見捨てるとは。
伊東が言い切った。
「お宮殿はそれも望まれています。
約束なさらなければ万の軍勢で上洛して頂きます。
これは全員の総意です」
非情な、・・・。
うちの大人達は私の為に命を惜しまぬ、それは承知していた。
だがな、・・・。
伊東が続けた。
「殿軍は近藤殿が率います」
おそらく殿軍だけではないだろう。
万の軍勢に代わり、忍び役方衆や山窩衆河原衆が動員される。
そして、行く先々で目を光らせる。
その近藤も執務室にいた。
私が見遣ると深く頷いた。
何も言わぬ近藤に代わり、お宮が口を開いた。
「御大将、ご希望が通ったのですから、詳細は私共にお任せください」
もう大人達に任せるしかない。
と、伊東が言う。
「ここで一つ問題が残っております」
「はて、なんだ」
「当家は大樹にとっても、内裏にとっても敵です。
前の将軍を討っておりますし、公家衆を幾人も魚の餌にしております。
仇であり、逆賊でもあります。
その辺りは如何いたしましょう」
「今回の和議は向こうにも利がある。
大樹も内裏も見て見ぬふりだ。
当家の旗印を掲げても問題はない。
・・・。
それに、お宮もそれで都に入ったのだろう」
お宮が頷いた。
「その辺りの配慮をすっかり忘れていました」
伊東が私を窺い見た。
「気にしないと」
「そう、こちらは気にしない。
向こうが気にするのは、向こうの勝手だ」
「都雀に逆賊、朝敵と罵られますが」
「寛大な心で、それは許そう。
手を出して来る者は別だ。
討ち払えば良い」
「先方に掛け合い、取り消す事も出来ますが」
「下手に出て、銭で解決するのは愚策だ。
つけあがる。
・・・。
逆賊で結構、朝敵でも結構。
あの手の者達は無視するに限る」
楽しみが出来た。
都雀の反応だ。
前回のお宮一行の場合は、奇襲するようにして上洛した。
だから激しい反応はなかった。
しかし、今回は違う。
周知されての上洛だ。
どんな反応が起きるか、それが楽しみだ。