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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
233/248

(西から迫る兵火)45

 困惑する安宅冬康に代わり、岩成友通が柳生永阿弥に尋ねた。

「久秀殿が忙しいのであれば、お主ではなく長頼殿か、孫六殿、

もしくは久通殿が来るべきであろう。

なのにお主が来たという事は、松永家総出で兵を動かしている、

そう疑いたくなるのだが」

 永阿弥は素っ惚けた。

「殺された数が、数でござる。

それも、あちらこちらに散らばっているそうで、疫病の恐れがあります。

なので、久秀様自ら兵を率いて、早急に片付けております」


 冬康は二人の遣り取りに頭を捻った。

話が見えぬ。

友通が永阿弥に何気なさそうに問う。

「大和の国人衆だが、生き残った者はいないのであろう」

「はて、某には生憎と・・・。

戦場には居りませんでしたので」

 冬康は気付いた。

顔を強張らせた。

友通より先に問うた。

「戦場の後始末を口実に、

これまで敵対していた国人衆を攻めているのか」

 永阿弥は表情を変えない。

「はてさて、某には何の事やら」

 思わず怒鳴った。

「ふざけるな、この機に待ってたとばかり、

官軍に名を連ねていた国人衆を滅ぼす算段か」


 永阿弥はどこ吹く風。

平然と話題を変えた。

「明智家は伊賀衆の望みにより、伊賀を版図に加えるそうです」

 冬康はこれに驚いた。

初耳だ。

彼だけではなかった。

大広間に居た多くの者が唸った。

友通が問う。

「まさか・・・、本当か」

「元々、多くの伊賀者が明智家に雇われるか、

足軽に組み込まれていました。

こうなるのは必然かと」


 冬康は気付いた。

お屋形様宛ての書状は報告書の体をなしていた。

臥しているお屋形様を案じて、簡略した書き方をしたのだろう。

ところが、この目の前の永阿弥は諸事情に通じていた。

のみならず、気安くそれらを漏らした。

まるで久秀の意向を言外に伝えるかの様に。

「永阿弥、久秀は我等にどうせよと」

 永阿弥はようやく表情を変えた。

軽く頭を下げた。

「いえいえ、どうせよとは・・・。

ただ一つ。

今後、伊賀から大和に明智勢が入って来る事は御座りませぬ。

松永家が明智家に敵対せねば、で御座いますが」

「我等は座して居れば安全、だから黙って見ていろと」

「いいえ、いいえ、三好のご本家がで御座ります」


 冬康は当初、意味が掴めなかった。

暫し置いて、理解した。

それより先に友通が言い募った。

「ご本家と申したな。

その意味は・・・。

官軍に名を連ねた者達は・・・」

「明智家に敵対した方々については、某では何とも申せません。

そこのところご理解下され」

 大広間が一挙に騒がしくなった。

声高に話し合う者、耳打ちする者、天を仰ぐ者、床を叩いて悔しがる者、

人それぞれであった。

それを横目に冬康は、敢えて永阿弥に尋ねた。

「儂は狙われるということか」

「そこの所は某にお尋ねになられても困ります」


 冬康は沈思思考に入った。

その間、友通や重臣達が永阿弥に質問を重ねた。

永阿弥は嫌がりもせずに一つ一つに気軽に答えてくれた。

時折、その永阿弥の視線が冬康に向けられた。

その色に堪え切れず、冬康は尋ねた。

「尋ねたい事でもあるのか」

「いいえ、ただ・・・」

「はっきり申せ」

「安宅様は舞台裏をご存知でない、そう見えましたもので」

「舞台裏とな」

「はい、舞台裏でございます」

「申せ」

「ここまでの遣り取りを振り返りまして、そう感じました」

 冬康は姿勢を正した。

「遠慮なく申せ」

「尼子家が官軍の主立った方々の了解を得て、

明智家との和議に動いております。

その事、安宅様はご存知ないのですな」

 冬康は心底から驚いた。

魂消た、魂消た、魂消た。

しかし、眉一つ動かさない。

大広間に座する者達から悲鳴に似た声が上がったので、

それで逆に冷静になれたのだ。

感謝しつつ、永阿弥に問を重ねた。

「畠山、細川、斯波、そしてこの三好も、という訳だな」

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